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2019.02.13

インタビュー

[特集SIerになろうvol.1]連携を地域から地方、世界へ/久保田和雄SIer協会会長

[特集SIerになろう]の第1弾は、昨年7月に発足したFA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)の久保田和雄会長(三明機工社長)へのインタビュー。人手不足への対応や生産性向上のため、自動化装置、特に産業用ロボットの活用に注目が集まり、ロボットとそれを導入したい企業をつなぐロボットシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)への注目もかつてないほど高まっている。静岡市清水区のSIer、三明機工の社長でもある久保田会長に、SIerと協会、その魅力や課題など幅広い話を聞いた。協会設立で生まれた連携を、将来的には世界的なものへ広げるという。

時代が後押し

久保田和雄SIer協会会長

――SIerの業界団体を立ち上げました。
 時代の要求の高まりが一番の要因です。日本は今、少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻な問題になっています。その解決策として、生産性向上に国を挙げて取り組んでいます。日本の産業構造を強くしなければなりません。日本の国内総生産(GDP)は世界3位ですが、一人当たりのGDPは同25位です。ということは、人口減少とともに世界におけるGDPの順位は間違いなく下がります。こうした時代認識に後押しされるように、ロボットの活用による生産性向上との機運が高まっています。だからこそわれわれSIerが注目されることになるのです。

――ロボットSIerとはどんな仕事でしょう。
 ロボットは「半」完成品で単体では使えず、周辺装置やハンドなどと組み合わせて初めて、何かを製造するための生産システムになります。生産システムを立ち上げるのがSIerの仕事です。最適なシステムの提案から設計、必要な機器の製造、組み立て、動作のプログラミングなど一連の工程を、顧客と綿密に打ち合わせながらまとめ上げます。ロボットを活用するには、ロボットメーカーばかりたくさんあっても駄目です。むしろそれだけ多くのロボットを活用する生産システムを立ち上げることができるSIerが、たくさんいなければならないのです。

SIerがつながり、協調

展示会に出展し、顧客が近所のSIerを探せるように巨大な地図上に会員企業を示した

――SIerの業界団体を立ち上げた意義は。
 まず一番大きな意義は、ネットワーク化です。SIerという仕事は、地域に根付いた地域色の強い職種です。というのも、地域の有力な産業を支えてきた経緯があるからです。現代はロボットとのセットで「ロボットSIer」と呼ばれますが、ロボットが一般化する以前から、製造現場の自動化などを担ってきたいわゆる「自動機屋」や「専用機屋」がSIerだったわけです。こうしたSIerは地域色が豊かで、業種や分野の得意技は実にさまざま。ネットワーク化することで、他社のことを知り、助け合える部分を見つけ、協業するなど、建設的な関係を構築できます。

――逆に競争が激化することは?
 地域も分野もさまざまに異なり、中小企業が多いので、すみ分けが容易です。それだけではなく、関係を構築した企業同士では1つの仕事を得意分野ごとで分担などすれば、案件の規模は大きくなり、受注の幅も広がります。もちろん地域や得意分野が重なることもありえるでしょう。その時には自社の強みで競合するのは当たり前のことです。それはネットワーク化に関係なく、これまでもこれからも変わりません。しかし、ネットワーク化することで、これまで競合一辺倒だった関係を「協調」へと移行させられる。具体的に、わが社はすでに会員企業と協調関係を始めました。

まずはSIerを知ってほしい

――会員数は増えている。
 昨年7月に協会を設立した時点で144社、9月には171社となり、12月時点では181社になりました。問い合わせも続いており、200社近い輪になっています。2016年に政府が策定した「日本再興戦略」では、SIer人材を3万人にすることが掲げられましたが、会員企業のSIer人材を合わせても約1万2000人で、まだ不足しています。さらに数を増やすためにも、SIerの認知度を高めるのが重要です。

――そのためにどんな手を打つのか。
 積極的な情報発信が大切ですね。SIerは、ロボットとエンドユーザーを結ぶ役割を担います。顧客の要望を実現するのが使命です。わが社では「ロボットを使って顧客の夢をカタチにする」と表現します。そしてこれこそSIerという職業の最大の魅力です。システムがうまく立ち上がった瞬間の喜びは、SIerしか味わえません。この魅力をちゃんと発信し、社会における認知度も上げたい。

――課題は少なくない。
 まずはSIerというものの「職業観」が必要です。職業として認識されねば始まりません。また、事業基盤の強化も同時に課題です。報酬を完成後の一括払いから、契約時など何段階かに分けてもらう方式を浸透させたい。受注前の打ち合わせと構想検討の段階は大変な時間と労力がかかりますが、現状ではほぼ全ての場合で無償です。SIerは中小企業が多く、資金繰りが大変なので、協会設立を機にたとえ小さくても変えねばなりません。会員企業からチャレンジしていきます。システムの構成要素となる部品の購入資金ぐらいは事前にほしいところですね。

地域、地方、海外で連携

――高度な技術力も求められます。
 SIerは、ハードウエアとソフトウエアそれぞれの技術に加え、各要素をまとめ上げる技術も必要です。今後の「SIerのあるべき姿」のためには、セキュリティーや情報処理、つまりコンピューター技術の知見が欠かせません。内製はごくわずかで、ほぼ外注に頼るのが現状です。それを内製にシフトしなければなりません。技術力の高度化が必要です。そのためにも経済産業省や日本ロボット工業会とともにまとめた「スキル標準」や「導入プロセス標準(RIPS)」などがありますが、これを協会としてさらに進化させつつ、同時に人材育成の標準化も図ります。いかに良いSIerがいるかでロボットのセールスは変わります。メーカー団体の日本ロボット工業会としても必死です。

――今後の展望は。
 5年後に「地域連携」、10年後に「地方連携」、20年後には「海外連携」を実現するため、協会の力を充実させます。SIerは地域性が豊かなので、それを生かした連携を地域で進めたい。そして日本国内を何分割かした地方単位での連携に育て、さらには日本だけでなく海外のSIerとの連携まで広げたいですね。単なる願望ではありません。輸出産業である日本の製造業への貢献という意味で必要なことですから。

(聞き手・構成 ロボットダイジェスト編集部 芳賀崇)

久保田和雄(くぼた・かずお)
1975年武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部卒業。三明機工社長。日本ロボット工業会理事。2018年7月、FA・ロボットシステムインテグレータ協会が発足し初代会長に就任。日本鋳造協会および国際部会役員。静岡県出身、1952年生まれの66歳。

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