世界一のソリューションをどこよりも安く【後編】/日本惣菜協会 荻野武AI・ロボット推進イノベーション担当フェロー
共同開発で開発コストを下げる
――前編では「協調領域では業界として協調していくこと、渋沢栄一の唱えた『合本』の考え方が重要」との話がありました。では、複数の企業が集まって、具体的にどのような取り組みを進めますか?
前編でも少し触れたように、総菜の製造工程の中で、盛り付けは協調領域の代表的なものだと考えています。そこでまずは、経済産業省などからの公的な支援も活用しながら、志を共有する複数の総菜メーカーと、各分野でトップクラスの技術を持つシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)や人工知能(AI)企業などを集め、「盛り付けロボットシステム」を開発します。複数の総菜メーカーが合本すれば、開発費や設計費を折半できるので、開発費低減につながります。
――複数の総菜メーカーが集まることで開発コストを下げるのですね。
コスト低減以外にも、非常に重要な意味があります。それは、業界として共通する課題や汎用的に使える仕様、整えるべき環境などを明確化できることです。個別の設計や開発なしでさまざまな総菜工場で汎用的に使えるロボットシステムを開発するには、総菜製造の現場に共通する課題を抽出し、どういった仕様なら総菜工場で使いやすいかを検討することが必要です。複数の企業の総菜工場に実際にロボットシステムを導入し、業界に共通する課題や運用上の障害、整えるべき環境などを洗い出します。
ロボットが活躍できる環境を
――「整えるべき環境」というのは?
ロボットを普及させるには、稼働環境をどう整えるのかも重要です。ロボットの導入が考慮されていない環境にロボットを放り込んでも、その効果を十分に発揮できません。ロボットを導入する際には、環境をロボットに合わせることも大切です。例えば、総菜容器のサイズを規格化する、ふたをロボットでも閉じやすい機構に変更する、容器の規格に合わせて番重(弁当などの食品を入れる樹脂コンテナ)の規格を定めるなど、さまざまなことが必要です。
――そうなると、総菜業界だけでなく、包装容器業界まで巻き込んだ話になります。
今、従来のプラスチック容器から、生分解性の素材などを使ったいわゆる「SDGs(持続可能な開発目標)対応容器」への切り替えが急速に進んでいます。現在はサイズなどの規格がないため、非常に多種多様なプラスチック容器が販売されており、そのそれぞれを置き換えるSDGs対応容器を開発するのは、容器メーカーにとって大変な作業です。また小売り店から見ても、容器の大幅なコストアップにつながります。「自動化しやすいように」というのを一つのきっかけに規格を整えれば、まとまった量が期待でき、規模の経済から低価格が実現でき、容器メーカーや小売店にもメリットになります。既に包装容器業界と話し合いも始めています。
――壮大な計画ですね。
技術面での新規開発や他業界との調整もあるため、5カ年計画で進めています。盛り付けロボットシステムやそのためのハンド、制御ソフトウエアなどを開発するプロジェクトと、ロボットを導入して環境面の課題などを抽出するプロジェクトは同時並行で進めています。5年後に現場導入ではなく、半年以内に実現場に食品盛り付けロボットを導入し、実運用する中で環境面の課題などを抽出して、さらなる改善を随時進めていきます。