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2022.06.16

連載

[気鋭のロボット研究者vol.25] 減速機が変わると、ロボットも変わる【前編】/横浜国立大学 藤本康孝教授

藤本康孝教授は2019年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などと、高い減速比を持ちながら小型で高効率な減速機「バイラテラル・ドライブ・ギヤ」を発表した。今年3月の2022国際ロボット展(iREX2022)では、日本精工が同機構を採用した「協働ロボット用アクチュエータ」を出展するなど、製品化に向けた応用研究が進む。

協働ロボをセンサーなしで

 同減速機では100対1を超える高い減速比でも、出力側にかかる力を入力側に伝達する逆駆動を実現した。協働ロボットの関節に使うと、人との衝突などでロボットアームにかかる外力を繊細に検出でき、安全性を高められる。

開発したバイラテラル・ドライブ・ギヤ

 基本構造には、複合遊星歯車を採用した。遊星歯車機構は太陽と周りを回る惑星に例えられる。中心の太陽歯車と公転する遊星歯車、その外側で遊星歯車にかみ合って回転する内歯車から構成される遊星歯車機構を、同軸上に2段重ねた。

減速機の常識覆す

2段に重ねた遊星歯車機構(=中央)を、それぞれ歯数の違う内歯車に噛み合わせる(=両脇)

 従来、同機構は駆動効率が高くないと認知されていた。だが、藤本教授は最適化計算を駆使して歯車のパラメーターや歯数を見直し、駆動エネルギーの損失を抑えた。駆動効率を高めたことで、逆方向にも力を伝えられる機構にできた。

 藤本教授は「協働ロボットに使えば、トルクセンサーを使わずに、モーターだけで接触を高感度に検知できる。一般の産業用ロボットでも高い減速比で高効率な減速機を使うメリットが多い。減速機の研究の歴史は長いが、初めてロボットに向く減速機ができた」と胸を張る。

――後編に続く
(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)

藤本康孝(ふじもと・やすたか)
1993年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒、98年同大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士課程修了。同年慶応義塾大学理工学部嘱託助手。99年横浜国立大学工学部助手、2000年同講師、02年同大学大学院工学研究院知的構造の創生部門助教授、07年同准教授、13年から現職。元は、シーケンス制御やモーター技術など電気系の研究を得意にしてきた。ロボットのモーションコントロールの研究の一環で減速機にも着手し、今回の減速機を生み出した。神奈川県出身の51歳。

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