生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2022.01.26

連載

[気鋭のロボット研究者vol.22]ロボットで高精度な穴加工【後編】/岐阜大学 伊藤和晃准教授

力制御の技術を応用したバリ取りロボットシステムの研究に取り組む岐阜大学の伊藤和晃准教授。バリ取りの次に目指すのは、熟練作業者の穴開け作業の自動化だ。アルミニウムの外板に高精度なリベット穴を加工するロボットシステムの実用化に向け、現在はロボットアームの先端に取り付ける「エンドエフェクター」の開発に力を注ぐ。

エンドエフェクターの開発に着手

航空宇宙生産技術開発センターにある250kg可搬の大型ロボット

 伊藤准教授は、航空宇宙産業の生産技術に特化した研究教育機関「航空宇宙生産技術開発センター」の人材育成部門長も兼務する。センターでは、航空機のアルミニウム外板にリベット(金属の板材同士を締結する部品)用の穴を加工するロボットシステムの研究開発に努める。

 従来は熟練作業者がハンドドリルを使い、手作業でリベット穴を開けていた。「オートリベッター」と呼ばれる専用機もあるが、高価な上に特定の用途にしか使えないのが課題だった。
 「日本の航空宇宙産業が国際競争力を維持するには、生産効率の向上や製造コストの低減が欠かせない。ロボットを使った自動化をもっと推進する必要がある」と強調する。

実験で使った7kg可搬のロボットとエンドエフェクター

 研究に当たり、まずは7kg可搬の垂直多関節ロボットを使ってアルミニウムの外板にリベット穴を開ける実験を始めた。だが、ロボットの剛性などの問題でドリルが加工中に振れ、十分な加工精度が出せなかった。
 そこで、別の研究者の力を借りて熟練者の穴開け作業をモーションキャプチャーで撮影し、動きや力の加減を分析。「熟練者は穴が開くか開かないかのギリギリのところで力を抜くことが分かった」という。
 
 この微妙な力加減を再現すればロボットでも高精度な穴加工ができると伊藤准教授は考え、ドリルやドリルを回転させるためのスピンドルモーター、ドリルを真っすぐ動かすためのリニアモーターなどで構成されたエンドエフェクターの開発に着手した。「来年度までに完成させ、実際の製造現場で検証したい」と意気込む。

――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)


伊藤和晃(いとう・かずあき)
2003年3月名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了、4月豊田工業高等専門学校電気・電子システム工学科助手。04年4月講師、09年4月准教授、17年4月岐阜大学工学部機械工学科知能機械コース准教授。現在に至る。人工知能研究推進センターのロボティクス分野長や航空宇宙生産技術開発センターの人材育成部門長も兼任する。趣味はスキーとゴルフ。1975年生まれの46歳。三重県出身。

TOP