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2024.01.31

連載

[気鋭のロボット研究者vol.32]球状の歯車が無制限に回転【前編】/山形大学 多田隈理一郎 教授

多田隈理一郎教授は、全方向に駆動する「球状歯車」の研究で注目を集める。当初は樹脂製だったが、より耐久性を高めるために工作機械の5軸マシニングセンタ(MC)でアルミ合金製の球状歯車を作った。球状歯車をロボットの関節や搬送装置に搭載することで、従来に比べ素早く柔軟な動作を実現できるようになる。

歯のかみ合いに独自技術

あらゆる方向に回転する球状歯車

 多田隈教授は、全方向に駆動する球状歯車の研究に取り組む。これまで素材に樹脂を使っていたが、新たにアルミ合金を加工して球状歯車を製造した。

 球状歯車は表面に歯がある球体で、X、Y、Zの3方向に無制限に回転できる。左右2カ所で、球状歯車とかみ合う特殊な形状の「鞍(くら)状歯車」と接している。球状歯車の表面に、通常の歯車ではかみ合えない「極」という同心円状の構造ができてしまう。そこで極と対応する構造を採用し、鞍状歯車を開発した。

 1つの鞍状歯車に対し2つのモーターで、回転とねじりの動きを出力する。モーターから、2つの運動を1つにして出力する「差動機構」を介して、鞍状歯車に動きを伝える。こうして従来の歯車では不可能な、3方向に自由な動きを実現した。

ロボットの小型化に貢献

「小型で確実に動力を伝達できるのが強み」と話す多田隈理一郎教授

 球状歯車をロボットの関節部分に搭載すれば、アームの動きをより柔軟にできる。また、搬送装置に搭載した事例や球状歯車にカメラを取り付けた事例もあるという。「原理的には球状歯車を直径20mmほどにでき、ロボットなどのサイズを小型化できる点がメリット」と説明する。

 多田隈教授が全方向に駆動する歯車の研究を始めてから、10年以上がたつ。「磁力などで全方向に駆動する球面モーターもあるが、より確実に動力を伝達できる歯車で実現したいと思い研究に着手した」と振り返る。

 当初は3Dプリンターで、樹脂を積層造形して球状歯車を作った。さらに耐久性を高めるために、5軸MCでアルミ合金の加工を始めた。「量産を狙い、次はプレス加工を考えている」という。

――後編に続く

(ロボットダイジェスト編集部 水野敦志)



多田隈理一郎(ただくま・りいちろう)
2005年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了、博士(工学)。同年、科学技術振興機構研究員。06年4月~08年10月まで日本学術振興会特別研究員(PD)。この間、約1年半は米ハーバード大学客員研究員。08年東京大学大学院情報学環・学際情報学府特任講師。09年フランス国立科学研究センター博士研究員。10年山形大学大学院理工学研究科テニュアトラック助教、13年から同大学院准教授、23年から現職。熊本県出身の47歳。

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