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ロボットとはいったい何でしょうか?
鉄腕アトムのようなアニメや、ソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」のような人型ロボット、工場で稼働するロボットアームなど、思い浮かべるものは人それぞれだと思います。
多少硬い表現にはなりますが、まずは定義を確認してみましょう。「2.産業用ロボットの種類」以降だけを読んでも産業用ロボットのイメージはつかめますので、定義について興味のない方は読み飛ばしていただいても構いません。
経済産業省ではロボットを「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義しています。
日本工業規格(JIS)では「二つ以上の軸についてプログラミングによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作して所期の作業を実行する運動機構」と定めています。
また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2014年にまとめた「ロボット白書」では、「完全に一般性を持った定義というものは実は存在しない」と前置きをした上で、日本ロボット学会元会長の森政弘氏らが提唱した「移動性、個体性、知能性、汎用性、半機械半人間性、自動性、奴隷性の7つの特性を持つ柔らかい機械」などの定義をいくつか紹介しています。
では、産業用ロボットとは何でしょうか?
JISでは「自動制御され、再プログラム可能で、多目的なマニピュレーターであり、3軸以上でプログラム可能で、1か所に固定してまたは運動機能をもって産業自動化の用途に用いられるロボット」と定義しています。マニピュレーターとは人の手や腕の代わりに作業する機構を指します。産業用ロボットで言えばアーム本体のことです。
ロボットは産業用ロボットとサービスロボットに大別でき、産業の自動化に使うものが産業用ロボット、日常生活の支援など産業の自動化以外の用途に使うものがサービスロボットです。
など
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産業用ロボットにはさまざまなタイプがあり、代表的なのが「垂直多関節ロボット」「スカラ(水平多関節)ロボット」「パラレルリンクロボット」「直交ロボット」の4種類です。
産業用ロボットは本体であるアーム(マニピュレーター)、制御ボックス、ティーチングペンダントの3つで構成されるのが基本です。制御ボックスには電源やサーボコントローラー、サーボアンプ、周辺機器用の接続端子などが収められています。ティーチングペンダントとは、ロボットの操作やプログラミングに使う手持ちの操作盤のことです。
ロボットハンドなど、アーム先端に取り付けるエンドエフェクターと呼ばれるユニットは別売りです。市販品もありますが、ロボットで扱う対象物に合わせてシステムインテグレーター(SIer)が製作することが多いです。
垂直多関節ロボットには人間で言う肩や肘、手首のような関節があり、人の腕と同様に複雑な動きが可能です。人の腕は7軸の自由度を持つと言われます。垂直多関節ロボットは6軸可動のものが多いですが、4、5軸や7軸のものもあります。
「産業用ロボット」と言った場合、多くの人がまずイメージするのはこのタイプです。ロボットの用途として大きな比率を占める溶接や塗装にもこのタイプが使われます。汎用性が高いため、物流拠点や部品加工工場などさまざまな現場で活用されています。
軸数が多いと動きの幅が広がり、腕を折り曲げれば狭い場所でも効果的に使えますが、複雑になる分使いこなすのが難しくなります。
スカラロボットは、水平方向の2つの回転軸と、垂直方向の1つの直線軸で構成されるロボットです。この3軸に加えて手首にも水平の回転軸を持たせた、4軸の製品が最も一般的です。物をつかみ上げる場合、水平方向の軸回転の組み合わせでハンドを対象物の真上まで動かし、垂直の直線軸でハンドを近づけます。
複雑な動作ができる垂直多関節ロボットと違って真上からの作業しかできませんが、水平方向への柔軟性と垂直方向への剛性(変形のしにくさ)を両立できるため、部品を押し込んで組み付ける組み立て作業に適しています。名称のスカラ(SCARA=selective compliance assembly robot armの頭文字。日本語では選択的柔軟性組み立てロボットアーム)という呼び方も、こうした特性に由来します。
価格は垂直多関節ロボットと比べ安価で、1970年代後半に山梨大学の牧野洋教授(当時)を中心に開発されました。
パラレルリンクロボットは、2本セットのアーム3対(あるいは4対)で1つの先端を支持するタイプのロボットです。先端にはワークを吸い付けて搬送するための吸着ユニットなどが取り付けられます。細く軽量なアームでも十分な剛性を確保できるため、非常に素早い動作が可能です。ベルトコンベヤーの上などに取り付けられ、流れてくる製品を高速でピックアップして搬送できます。
直交ロボットは、直角に組み合わせた直線軸からなるロボットです。直動案内機器とボールねじなどからなる1軸動作のユニットを組み合わせて構築します。1軸(単軸)、2軸、3軸、4軸、6軸と、用途に応じて軸数を増やせます。複雑な動作はできませんが、シンプルで安価なロボットです。
その他の分類方法としては、動作の入力方法による分類があります。最も一般的なのは「プレイバックロボット」で、これは行わせたい動作の途中の姿勢をいくつか覚えさせ、それら姿勢をつなぐことで求める動作をさせるものです。動作を覚えさせる作業をティーチング(教示)と言い、その動作を再生(プレイバック)するのでプレイバックロボットと呼びます。産業用ロボットと言えば通常はプレイバックロボットを指します。その他、あらかじめ設定された一定の手順を繰り返すだけの「シーケンスロボット」、動作を覚えさせるのではなく数値などをプログラミングして制御する数値制御(NC)ロボット、人が操縦する操縦ロボットなどがあります。
近年では普通の産業用ロボットとは異なる「協働ロボット」と呼ばれるものが登場し、各社がこぞって新製品を投入しています。アームが周囲の何かに接触すると検知して直ちに停止するなど、安全性が高いのが最大の特長です。一般的な産業用ロボットは安全柵で囲むなど、人とロボットの作業空間を明確に分けなければいけませんが、協働ロボットは危険がないことが確認(リスクアセスメント)できたなら安全柵なしで使用できます。
その他、1つの土台に2本のアームを付けた「双腕ロボット」と呼ばれるタイプもあります。両手で箱を持つなど、アーム1本ではできない動きができます。人の作業をそのまま置き換えることができるので便利です。垂直多関節ロボットを2本付けたタイプが多いですが、スカラロボットが2本のタイプもあります。
産業用ロボットの市場は年々拡大しています。国際ロボット連盟(IFR)では、世界の産業用ロボットの出荷台数が今後数年間、毎年15%ペースで増加すると予測しています。2010年は出荷台数12万1000台でしたが、17年には3倍近い34万6000台になり、20年には4倍を超える52万1000台になる見通しです。
世界のロボットの稼働台数も今後数年間、毎年14%ペースで増加するとIFRは予測しています。2010年には105万9000台でしたが、17年にほぼ倍の205万5000台になり、20年には3倍近い305万3000台になる見通しです。
日本ロボット工業会の統計を見ても、国内メーカーの17年の受注額は9447億円で、前年比27.8%も増加しました。受注台数は同29.2%増の約23万5000台です。5年連続の前年比増加で、どちらも過去最高を記録しています。
生産額も爆発的なペースで伸びており、17年は前年比で24.8%増の8776億5700万円でした。生産台数は同34.0%増の約23万台4000台で、金額、台数ともに過去最高です。
出荷先で急速に増えたのは中国ですが、国内向けも出荷台数、出荷額ともに二桁成長しています。この調査は会員企業44社と非会員企業12社を対象としたもので、サービスロボットを除いた産業用ロボットのみの実績です。
国内ではメーカー団体の日本ロボット工業会に加え、18年7月にはロボットのシステムインテグレーターの団体である「FA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)」も発足し、ロボット導入に拍車が掛かると期待されています。
自動で動作する機械機構は、西洋ではオートマタと呼ばれ中世にはすでに存在しました。日本でも「からくり」として江戸時代には普及していました。しかしこれらはロボットとは呼ばれておらず、「ロボット」という言葉が初めて登場するのはチェコの作家カレル・チャペックが1920年に発表した戯曲「R.U.R.(ロッサム万能ロボット会社)」と言われています。
ロボットは、チェコ語で労働を意味する「robota(ロボタ)」や、スロバキア語で労働者を意味する「robotnik(ロボトニーク)」などから作った造語で、同作品の中では人造人間(アンドロイド)に近いものとして描かれています。
その後、20世紀中盤からは米国の作家アイザック・アシモフがロボットの登場するさまざまなSF小説を発表。「ロボットは、人間に危害を加えてはならない」「ロボットは、人間に与えられた命令に服従しなければならない」「ロボットは、自己を守らなければならない」といった「ロボット三原則」が知られるようになりました。
アイザック・アシモフ「われはロボット(決定版)」(2004年早川書房)より引用
この三原則は換言すれば「安全で操作しやすく、壊れない」とも表現でき、その後のロボット研究の方向性に影響を与えたとも言われています。人工知能(AI)が発達し、SF小説の世界が現実のものとなりつつある中で、近年改めて「ロボット三原則」に注目が集まっています。
産業用ロボットの歴史は1950年代の米国から始まります。54年にジョージ・デボル氏が、一度動作を記憶させて(ティーチング)、その動きを再生する装置を考案し、今日の産業用ロボットの礎となりました。その後、58年にはコンソリデイティッド・コントロールス社が産業用ロボットの試作品を発表しました。実用化されたのは60年代に入ってからで、61年にはユニメーション社が産業用ロボット「ユニメート」を発売、AMF社も同年産業用ロボット「バーサトラン」を開発して翌年発売しました。いずれも米国の企業です。
日本でのロボット生産の歴史は68年に始まりました。同年にプレス機械メーカーの会田鉄工所(現アイダエンジニアリング)が工業用ロボット「オートハンド」を発表し、また川崎重工業が米国ユニメーション社と技術提携を結んで翌69年に産業用ロボット「川崎ユニメート2000型」の製造販売を開始しました。70年代に入るとその他の企業も市場に参入し、研究開発が活発化しました。川崎ユニメート2000型など、初期のロボットは左右・上下への旋回軸と直線の伸縮軸からなるものが多く、現在主流のロボットとは軸構成が異なっています。