3台のAGVで月480時間の運搬工数を削減/中村留精密工業
3つの工場棟が三位一体に
中村留精密工業のMAGIは既存の第11工場と第12工場、そして昨年7月に完成した第13工場から成る。新約聖書に登場する「東方の三賢者(マギ)」のように3つの工場棟が三位一体となり、工作機械用ユニットの製造から組み立てまでを一気通貫で担う。
従来は組み立て工場が複数の場所に分散しており、物の運搬や人の往来が頻繁に生じていた。それをMAGIに集約することで、組み立てエリアの整流化や工程管理の効率化を図った。
同社は昨年10月にMAGIの操業を開始して以来、既存の工場から設備を移管したり、新規設備を導入したりと、効率的な生産体制の構築を段階的に進めてきた。
その一環で、ユニット製造を担う第13工場の2階には、床面に貼り付けられた2次元コード(QRコード)を読み取りながら走行するQRグリッド式のAGV3台を同社として初めて導入した。
作業者は組み立てに集中
今年8月から本格稼働した3台のAGVは、主にユニット用部品や製作後のユニットの運搬作業を担う。246枚のパレットが収納可能な自動倉庫からユニット用部品を取り出し、まずは翌日作業分のストックエリアまで搬送する。その後、AGVが夜間のうちにストックエリアから当日の組み立て作業エリアまで部品を配膳することで、組み立てに必要な部品が全てそろった状態で作業者がすぐに業務に着手できる環境を構築した。製作後のユニットもAGVが自動倉庫まで搬送するため、作業者は運搬作業に一切手を取られることなく組み立てに集中できる。
中村社長は「AGVの移動パターンがあらかじめ決まっている上に、経路も直線的でシンプルだったため、SLAM(スラム、自己位置推定と環境地図作成)式ではなくQRグリッド式のAGVを採用した。従来は専任の運搬作業者や組み立て作業者が担っていた搬送作業を3台のAGVに置き換え、月480時間もの運搬工数を削減した」と強調する。
また、同社はAGVを運用するための専用ソフトウエアも内製した。作業者はユニットの組み立てが完了したら、手持ちのタブレット端末から専用ソフトを立ち上げてAGVを呼び出すだけでよく、すぐに次のユニットの組み立てに取り掛かれる。
「若手からベテランまで幅広い年齢層のメンバーが組み立てエリアで勤務しているため、誰でも簡単にAGVを取り扱えるシステムが必要だと考え、シンプルな仕様の専用ソフトを自前で開発した」と中村社長は話す。
生産能力は35%増
同社は複合加工機と呼ばれる、複数の加工法を1台に集約した工作機械を得意とする。今回のMAGIの本格稼働を機に、「ユニット生産」などをはじめとした複合加工機の製造方法の変革にも乗り出した。
これは、「主軸ユニット」や「インデックスユニット」など工作機械用ユニットの製作段階から慣らし運転や品質保証を進め、ユニット単位での完成度を高める生産手法を指す。工作機械の組み立て時の調整工数を極小化し、製造リードタイム短縮や品質向上につなげるという。
組み立てエリアの整流化やAGVによる自動化などと合わせてユニット生産にも力を注ぎ、生産能力を従来比で35%高めた。
中村社長は「複合加工機を製造現場に普及させるには、需要のピーク時にもいかに短納期で供給できるかが重要。これを実現するためにもユニット生産の適用範囲をさらに広げ、製造リードタイムをさらに短縮したい」と述べる。
(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)