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2020.11.09

連載

[注目製品PickUp!vol.31]機械要素部品メーカーが誘導システムを開発したワケ【前編】/THK「SIGNAS」

機械要素部品メーカーのTHKが無人搬送車(AGV)向けの新たな誘導システム「SIGNAS」を開発した。目指したのは、簡単に経路を指示でき低価格で導入できる磁気テープ式のAGVと、任意で経路を変更できて稼働の自由度が高い自律移動型搬送ロボットの「良いところ取り」だ。星野京延常務執行役員は、「生産現場でAGVを使う際の悩みを解決する製品」と話す。

開発したのは、誘導システム

 機械要素部品メーカーのTHKは9月1日、独自開発した無人搬送車(AGV)向け誘導システム「SIGNAS」を搭載する搬送ロボットの受注を開始した。

 搬送ロボットが内蔵カメラでサインポストと呼ばれる目印を認識すると、そのサインの種類に応じて事前に設定した通りに進行方向を変えたり、停止する。AGVの誘導によく使われる磁気テープなどの敷設が要らず、サインポストを移動させるだけで経路の変更ができる。

磁気テープ式と自律移動型の「良いところ取り」を

IMT事業部長を務める星野京延常務執行役員

 IMT事業部長としてロボット事業を統括する星野京延常務執行役員は、「従来型のAGVと、AMRとも呼ばれる自律移動型搬送ロボット、双方の良い所を生かす誘導方式を目指した。生産現場でのAGVの弱点を解決する」と、SIGNASの開発意図を明かす。

 人手不足により、世間では単純作業を自動化する機運が高まっている。工場や倉庫内の搬送作業もその一つだ。そこでAGVの利用が広がる。
 市場で普及するAGVの多くは磁気テープを床面に張る誘導方式を採用。磁気テープを貼るだけで経路を指示でき、簡単に安定した走行ができる。また、数ある誘導方式の中でも磁気テープ式のAGVの導入コストは低価格で済む。

 一方、経路が磁気テープ上に固定されてしまい、進路上に障害物があると停止してしまう。また、ほとんど凹凸のない床面でしか稼働できず、磁気テープがはがれて途切れると走行できなくなるため、床面の磁気テープの定期的なメンテナンスが必要だ。

紹介リーフレットのトップ画像(提供)

 また、自律移動式の搬送ロボットも普及しつつある。特に周囲の状況をレーザーセンサーやカメラで読み取り、自身の位置を特定しながら移動するSLAM(スラム)方式が人気だ。こちらは任意の経路を設定でき、障害物を回避しながら走行できる。
 しかし、稼働前に経路を設定する教示作業が難しい。また、自身の位置を見失う場面も多い。つまり、自律的に経路を判断するのは理想的ではあるが、稼働は安定しにくい。そして何よりも導入時の費用が高額だ。

 そこで同社は、①経路を容易に設定できる②磁気などの誘導テープが不要③障害物を避けるための一時的な経路変更が簡単――の3点の実現を目指した。そういった従来のAGVに足りなかった機能を付加した上で、安定した稼働を継続でき、低価格な誘導システムを開発した。それがSIGNASだ。

目印を起点に動作を変える

誘導制御の仕組み(提供)

 SIGNASは「Signpost navigation system(サインポスト・ナビゲーション・システム)」の略。事前に経路に設置した、目印となる専用のサインポストを、AGVに内蔵する双眼のカメラでロボットとの距離を測りながら認識する。そのサインに応じた動作を実行する。

 例えば、Aパターンのサインポストを見て「その右横1mまで進む」。次にBパターンのサインポストを認識して「前進し、設定された距離まで近づくと右に90度回転」。回転後に見える Cパターンのサインポストを認識し、「その左側を、設定された距離を保って走行する」といったイメージだ。

SIGNASの標準セット内容やサインポストの例(提供)

 さまざまな環境下でも他のものと見間違わずにサインを認識できるよう、サインポストは縦3×横3のマス目を備え、白色(反射板あり)と黒色(反射板なし)の組み合わせでサインを表す。
 ロボットには光源を搭載。その光をサインポストが反射し、サインをカメラで認識する。サインポストは全16種類を用意する。

 事前の教示は、専用のタブレット端末で直感的に入力できる。サインポストの表示パターンを指定し、そのサインポストからどのくらい離れた地点でどのような動作するかを選択肢から選ぶ仕組みだ。

サインポストを動かすだけ

サインポストを動かすと、経路も変わる(提供)

 動作を変えるきっかけはサインポストの認識のみ。サインポストを意図した箇所に設置できれば、初心者でも簡単に経路を設定できる。
 また周囲の状況が変わった際には、サインポストの位置をずらすだけで経路を変更できる。

 9月に受注を開始したSIGNASを搭載するAGVを、同社では「ベースマシン」と呼ぶ。誘導システムとしてのSIGNASの魅力を引き出せるよう、一般的なAGVよりも走行性能を高めた。

IMT事業部ロボット部の北野斉部長

 例えば、一般的な磁気テープ式のAGVではテープが途切れてしまうために溝を横断できないが、ベースマシンは50mm幅の溝まで問題なく横断できる。また、段差も10mmの高さまで乗り越えられる。
 IMT事業部ロボット部の北野斉部長は「発表から1カ月ほどで、数十件の問い合わせがあった」と反響の大きさに驚く。

 後編では開発の経緯や今後の展望を聞いた。星野常務執行役員は「今後の可能性は無限大」と話す。そのワケとは?

(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)




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