[コラム] 攻めのロボット活用、略してロボ活
ロボットダイジェストでも随想を連載されたことがある日本ロボット学会の小平紀生名誉会長が「産業用ロボット全史」(日刊工業新聞社)を出された。メーカー横断的に業界全体を俯瞰(ふかん)した、まさに歴史書であり、資料的な価値が高い本である。
そんな小平名誉会長は11月6日の日刊工業新聞「著者登場」の欄で、「自動化が競争力強化ではなく、人手を減らす目的になってしまった」と言及されている。これはなかなかに鋭い言葉だ。
自分を含めメディアの多くは「産業用ロボット=省人化ツール」という宣伝文句に深く考えもせずに乗っかっている。しかし、本来ロボットは人手不足解消という受動的な形よりは、むしろ競争力強化のために導入すべきものである。攻めのロボット活用、略してロボ活こそが必要なのだ。
では、競争力とは何か? それを考え出すと長くなるので、ここではM・トレーシーとF・ウィアセーマの著書「ナンバーワン企業の法則:勝者が選んだポジショニング」(日本経済新聞社)を用いることにする。
要するに、業界ナンバーワンになる企業は①オペレーショナルエクセレンス(業務システムがすごい=安さや便利さ)②プロダクトリーダーシップ(商品がすごい)③カスタマーインティマシー(顧客と親密)――のいずれかに優れるという説だ。つまり、ロボットのユーザー各社には、この3つのいずれか一つまたは複数と、ロボットの特性とをひもづける戦略立案が必要とされるのである。
例えば、組み立てを自動化しやすくするためにロボットが持ちやすいパーツを設計するというDFM(デザイン・フォー・マニュファクチャリング)的な戦略ならば①に該当するだろう。顧客がほしいと言ったとき、24時間いつでも生産できるようロボットを配備した受注システム連動型の生産セルなどは③に該当するかもしれない。
そんな風に考えると、実はロボットは生産技術者や保全担当者だけでなく、設計開発、営業、総務、品質管理など、製造現場以外の場所で働く人にも知ってほしい技術であることが分かる。「その道のプロ」として彼らが日ごろ取り組んでいる業務にこそ攻めのロボット活用のヒントが散らばっており、その課題を解消することが競争力強化につながるからだ。
ということで、このコラムを読まれている経営者の皆さま。どうか今回の「2023国際ロボット展」(11月29日~12月2日、東京ビッグサイト)を、製造現場以外で働く人々にも視察させてください。そして「どうやったら自分の部署の業務と直接・間接的にロボット技術をひもづけられるか考えよ」と宿題を出してください。また、展示会後には、彼らと生産技術者や保全担当者の方々でたくさん議論や雑談をさせてください。
ロボットは全ての産業で活用できる便利ツールです。もはや部署がどうとか言っている場合ではありません。日本では、これからすごい勢いで生産年齢人口が減少します。残念ながら製造業はさほど人気がないので、どう頑張っても多くの若者が来てくれるとは考えにくいです。今いるメンバーだけで10年後も20年後も会社を発展させていくくらいの覚悟が必要です。「製造業の人気向上」と「攻めのロボ活」、いずれが現実的かというと明らかに後者です。
なにとぞご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
(ロボットダイジェスト編集長 八角 秀)