軟らかいものをどうつかむ? ~ソフトハンド開発動向【後編】
シンプルな構造で低コスト
立命館大学理工学部の平井慎一教授は、ソフトロボティクス研究の先駆者の一人。エアで動作する多指ハンドだが、3Dプリンターで樹脂製の指を製造しており製造コストが低い。
「食品工場で使うソフトハンドは、傷んだら惜しまず捨てられるほどコストが低くなければならない」と話す。
3Dプリンターを現場に設置できれば、ロボットが稼働するそばで指を製作でき、交換しやすい。
課題は、3Dプリンターで造形する樹脂は安全性が確認されていないため、直接造形した指は食品工場では使えない点。安全を確保するには、3Dプリンターで指の型を製作し、シリコンなどで指を成形する。
「構造の複雑なものは、優れていても普及しにくい。構造や制御がシンプルで、メンテナンスしやすいソフトハンドを追求したい」と語る。
タコの吸盤に学ぶ
また、極小のバルブ(マイクロバルブ)を備えた小さな吸盤も研究する。吸盤が物に軽く触れるとマイクロバルブが開いて吸気し、吸盤内が減圧してものを吸着する。一つ一つの吸盤のつかむ力は大きくないので、直列に並べて吸着力を高めて使う。
小さな吸盤を並べてつかむグリッパーはすでにあったが、従来は一つの吸盤が外れるとエアの漏れが止まらず、グリッパー全体が吸着力を失うという欠点があった。高橋准教授が開発したグリッパーでは吸盤が外れたらマイクロバルブが閉じるため、グリッパー全体の吸着力は維持される。
物を落としにくい特性が評価され、医療関係者から関心を寄せられたことも。「手術で臓器を持ち上げておく時に使いたいとの相談を受けた」と言う。今後の課題は、部品点数を減らすこと。耐久性を上げ、コスト削減にもつながる。