[特集FOOMA JAPAN2021 vol.2]2年分の進歩を披露、今こそ展示会を見てほしい/日本食品機械工業会 海内栄一 会長
日本の食生活が変わる
――前回展であるFOOMA JAPAN 2020は新型コロナの影響により中止となりましたが、今回展のFOOMA JAPAN2021では出展者のより一層の意気込みが感じられます。
従来は毎年開催でしたので、今回は2年間分の蓄積が披露されます。新たな機械やシステムがどれだけ生まれたか、あるいは作り方・考え方がどれだけ進歩したかが顕著に表れるはずです。ロボット技術についても、これまでに比べてワンランク上の提案がなされるでしょう。今年に入っての他の展示会ではすでに、今までにないロボット活用の提案が表れています。FOOMA JAPAN 2021は他の展示会以上に、来場者にご満足いただける内容になっていますし、また、安心してご来場いただけるよう感染防止対策を徹底して開催します。出展者は600を超え、開催地が東京から名古屋に変わっても想定ほど目減りしませんでした。会員企業をはじめ出展者の意欲の表れですし、期待の大きさを感じますね。
――食品機械業界の大きな傾向は。
コロナ禍を経て日本の食生活が変わるとの意識の高まりが感じられます。自宅での食事が多くなり、家で作りやすく食べやすい食品をターゲットにした食品機械やソリューションが増えています。例えばハムなら、贈答用の一本物ではなくスライス物が増え、いずれ贈答用もスライス物へと変わるでしょう。スライスハムは従来、人手で計量やパック詰めをすることが多いのですが、そうしたことを自動化する余地は大きい。そうした提案もすでに出てきています。
――FOOMA JAPAN2021では食品機械業界の潮流や変化の情報が得られる。
業界は常に、食品の将来像をイメージしながら進んでいます。そして機械設備へのニーズは、社会や時代による変化の影響を大きく受けます。そしてコロナ禍で変化のペースは上がっています。だからこそ今、展示会を見てほしい。展示会に行かなければ分からないこと、感じられないことがあることは強調したいです。食品機械メーカーは細分化した特色ある専門メーカーが多く、それは同時に中小企業が多いことも意味します。それゆえ、スケールメリットを出すためのグループ化なども進んでいます。他にも、ロボット活用の共同開発をはじめさまざまな開発が進んでいます。見どころは多いですよ。
人のフレキシブルさを代替
――食品機械業界の市況はいかがでしょう。
日食工がまとめる2020年の食品機械販売額は5800億円を超え、前年比3%弱の微増となりました。コロナ禍で飲食店が不況で食品の需要も下がった一方、いわゆる「巣ごもり」需要は上がるなど、凹凸はあるものの平均すればプラスが上回ったということ。好調な分野と不調な分野が混在しています。また、一部には過去の受注残があったこともプラス要因と考えられます。数字的にはプラスとなりましたが、肌感覚として経営環境は大変厳しい状況にあると思います。
――食品機械は裾野が広く、多様な機種があります。
日食工の統計では食品機械を、精米麦、製粉、製めん、製パン・製菓、醸造用、乳製品加工、飲料加工、肉類加工、水産加工の9品目と「その他の食品機械」としており、さまざまな機械があります。さらに細かく個別の品目で見ると、最も規模が大きい製パン・製菓機械では、製パンは巣ごもり需要で現在は好調なのに対して、製菓は贈答用の減少により不調など、かなり大きな違いがあります。全体として見れば市況は悪くありませんが、細かく見ればまだら模様なのです。
――課題として指摘できることは。
食品加工の現場では相変わらず人手不足が続いています。ここ10年ほどで外国人労働者が増えましたが、それはもはや賃金が低く抑えられるからではありません。とにかく人が足りないのです。もはやコストの高い・低いではなく、人がいる・いない、つまりいかに人を確保できるかが重要な時代になっています。例えば農産物や畜産物など形状や大きさが同じでない食材を扱うにはフレキシブルさが必須です。人間の五感はやはり優れていて、人間のフレキシブルさが現場で不足するため、それを機械で補わねばならなくなっています。機械が微細な違いを読み取り、自分で制御しつつ自動的に処理することは簡単ではありません。現場のフレキシブルさの不足に対して、今のところの解決策としては人工知能(AI)やロボットなどで対応することになると思います。
密閉性が最重要課題
――食品産業でもロボットの活用が増えてきました。
ロボットを使う際には、食品関係である以上、人への安全と衛生的な安全の2つの安全は絶対にクリアしなければなりません。最も望まれるのは、丸洗いができる密閉性ですね。食品機械はクリアできているため、ロボットもそのレベルに合わせることが必須になります。
――その際のポイントは。
食品業界の規制は各国により異なるため新たな基準の必要性も指摘されており、規格の統一化の動きもあります。食品機械はこれまで国際標準のISO規格がありませんでした。欧州を中心に規格化の動きがあり、一昨年の11月にISO/TC326(食品との使用を意図する機械)が設置され、日食工も積極的に参画しています。規格作りは一般的に欧州がリードしますが、もしもそこに関わらなければ、日本の業界にとり不利益となることが考えられます。例えば欧州にはない機械が、欧州の事情を標準にして規制されても困ります。醸造用機械では、醬油を作る機械を、タバスコを作る機械の規格で規制されてしまう事態なども考えられるのです。食べ物だからどこの国でも同じと考えるのは大間違いです。
――現在の外需比率は。
統計上は1割弱です。内需依存が高いのは食品機械業界の特徴ですが、今後の成長を考えると外需を伸ばしたい。そのためにISOの問題にも主体的に関わっているのです。食品機械の顧客である食品メーカーの目も海外市場に向いています。カップ麺などをはじめ、海外市場への攻勢を強めています。その動きに食品機械もついていかねばなりません。そのため、会員企業にはISOなど国際標準の重要性を周知したいですね。国際標準に対応していくことが海外市場でのビジネスのためだけでなく、業界全体のレベルアップにも確実につながりますから。同時に、現在は特に東南アジアをはじめ海外の展示会へのグループ出展などにも力を入れています。
コスト要求は厳しい
――技術トレンドやロボットへの要求は。
食品機械は、手作業を機械化する一種の自動化・省人化ロボットとも言えます。ラインとしてさまざまな機械を組み合わせることにより、無人化も可能です。最近の食品機械は高度化し、人手不足を補うためフレキシブルさを向上させており、ますます「人の代わり」を担うようになっています。しかし、食品機械がやっていることを実際にロボットでできるかといえば、まだまだ難しい。現在の食品製造でのロボットの仕事は、生産準備と搬送がメイン。これは現場の自動化レベルでいえば初期的なものでしかありません。
――食品産業向けロボットには課題も多い。
理想は、実際に食品を作る、加工するロボットですね。開発の傾向としてはこの方向に進んでいます。食品機械はフレキシブルさを取り入れ、人の代替となることを実現してきました。また食品機械以外が担う作業も自動化すべく、ロボットなどが生産準備や搬送を担うようにはなってきました。次の段階として食品の加工でも、ロボットが人の手の代わりを担えるようになることが求められています。食品機械のやっていることの一部をロボットが代替する。食品機械を助けるロボットのハードルは低くありません。そのため、コストと作業の価値の見直しなどが、顧客である食品メーカーでも食品機械業界でも進んでいます。高機能なロボットを使うのはコストが合いません。どこまでの能力がロボットに必要かを、コストとの兼ね合いで見極めることが重要になりますね。
――食品産業は設備へのコスト要求が厳しいと言われます。
安全や衛生の条件を満たし、適正なコストならば、食品業界でもロボットの導入が爆発的に進むでしょう。ただ、自動車業界のように一度に何十台も導入するケースはない。「何をいくらで売るために使うのか」、これがコストを決めるスタートですから、食品業界は他の製造業に比べてもコスト要求は厳しいでしょうね。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集部 芳賀 崇)
海内栄一(うみうち・えいいち)
1971年日本大学理工学部卒業、武蔵入社。75年花木工業入社、79年取締役技術部長、85年専務、89年から花木工業社長。2018年より日本食品機械工業会会長を務める。東京都出身、1948年生まれの73歳。
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