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2022.03.07

コラム

[コラム] ロボットのための不自然空間

2019年の国際ロボット展(iREX)の様子

 「僕らはプロだから、ロボット本体の動きはあまり見ない。見るのは、ロボットの前までどう仕事が流れて来るか、後工程にどう回しているか、ロボットの周辺の環境をどう整えているか。そういう所にシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の実力が出るんですよ」
 食品工場に導入されている自動化システムの動画を見ていたとき、ある熟練のロボットSIerがそう教えてくれた。それ以来、自動化システムを見る時はロボット以外の部分をじっくり観察するよう心掛けている。すると、おぼろ気ながらもロボットを使いこなすコツというか条件のようなものが分かってきた。

 産業用ロボットは、いわゆる「ツンデレ」(普段はツンツンしているくせに、ある条件が整うと優しくなったりかわいらしくなったりする性格のこと。漫画やアニメのキャラクターの性格設定に用いられるテンプレートの一つ)である。非常にわがままで、ちょっとやそっとじゃ全然言う事を聞いてくれないし、アドリブは利かないし、少しでも気に入らないことがあるとすぐに仕事を放り出す。しかし、ひとたび環境が整うと、人間をはるかにしのぐ驚異的な実力を発揮するのだ。『どう、私(僕)ってすごいでしょ?!』と。

 では、いかにしてこの驚異的な実力を発揮してもらうかと言うと、具体的には、できるだけ不自然な環境で包んであげることが重要だ。ここでいう不自然とはアンナチュラル(自然じゃない)ではなくアート(人工)である。平面や直線、直角、垂直、真円・真球は自然には存在しない。全ては人の想像力が作りしものである。

 われわれが普段活用できる環境のうち最も高度に不自然なのは工場だろう。しかし、工場内の平面は理論上の平面よりもガタガタしているし、直線もそれを直線と呼ぶのをためらうくらいには曲がっている。ここでまずズレが生じる。
 さらにやっかいなのは、ロボットの挙動がプログラムという不自然で美しい数式によってバーチャルに定められることにある。現実世界のロボットの体はバーチャルに比べてかなり“自然”な作りであるため、ロボット自身がそのズレに苦しみ続けるのだ。これこそ他の産業機械と違って空間的に解放された――まるで人間と同じような――環境下で仕事をしなければならないロボットが抱える宿業である。

 要するに、ユーザーがロボットのためにしてやれることと言えば、できるだけ完璧に近い平面や直角などのアートだけで構成される「究極の不自然環境」を整え、バーチャルとリアルのズレを極小化することくらいなのだ。プログラムで記述される世界と同レベルに不自然な環境でなければロボットの機嫌はすぐに悪くなるのだから。

 さて、いよいよ「2022国際ロボット展(iREX2022)」が開幕する。もし余裕があれば、「ロボットが実力を発揮できる環境をいかに整えるか――」。そんな視点で会場を回るのも一興であろう。

(ロボットダイジェスト編集長 八角秀)

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