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2023.07.18

連載

[ロボットが活躍する現場vol.29] 東北に建てたスマートファクトリー/三井屋工業(1/3)

三井屋工業(愛知県豊田市、高橋直輝社長)は車の内外装部品を製造する。2021年に自動化設備やモノのインターネット(IoT)システムを活用したスマートファクトリーをコンセプトに、東北工場を建設した。本社工場などで課題だった点を解決できるよう、設備やレイアウトを工夫した。高橋社長は「検査や搬送作業などを自動化し、効率的な生産体制を構築できた。今後はデータ活用を進め、設備の停止や製品の品質不具合に関する予兆検知も実現したい」と語る。

生産性は2倍に

高橋直輝社長と東北工場の加工機

 三井屋工業は、自動車のトランクルーム用の内装部品やタイヤの上部に取り付ける外装部品を製造する。吸音性の高い樹脂素材を独自開発しており、エンジン音やタイヤと路面の摩擦で生じるロードノイズなどが車内に届くのを防ぐ。自動車内の静音性を高め、快適なドライブに貢献する重要な部品だ。

 戦後間もない1947年に創業した当初から、自動車のカーペットのかさ上げ材などの内装品を提供してきた。現在の従業員数は206人。工場は本社のある豊田市内に2つと福岡県宮若市に1つ、山形県米沢市に1つ。米沢市の東北工場が一番新しく、2021年に稼働した。

 東北工場の建設時には本社工場などで課題だった点を洗い出し、自動化設備やIoTシステムを取り入れたスマートファクトリーをコンセプトにした。自動検査システムや無人搬送車(AGV)を導入し、作業者1人当たりの生産性は従来の工場と比べ倍になったという。高橋社長は「既存の工場で設備や構造を大きく変えるのは難しく、生産性の高い新工場の構想を練っていた。東北は自動車部品の生産拠点が多く、この場所に建設を決めた」と語る。

「安心」「良品」「効率」が合言葉

2021年に稼働した東北工場の外観

 黒い外壁の東北工場は、シックな雰囲気を漂わせる。同社のコーポレートカラーはスカイブルーだが、刷新された新たな工場とのイメージを強調するため、従来とは異なるこの色を採用した。延べ床面積は3030㎡。広い土地にはまだ余裕があり、増築も視野に入れる。

 同社の東北工場の設立を後押ししたのが、中堅・中小製造業の経営を支援するセレンディップ・ホールディングスだ。三井屋工業は18年にグループに入り、新工場のコンセプトなどを共に議論した。高橋社長は「グループ入りがなかったら東北工場は実現しなかった」と振り返る。

米沢市が制作した東北工場の紹介動画(提供)

 スマートファクトリーの構想時に「安心して、良品だけを、効率的に作る」という従来の指針の頭文字を取り「ARK」と合言葉を定めた。それまでは製品の検査や搬送など人手作業が多く、製品の不良率が正しく把握できていないという課題もあった。
 そこで導入したのが、材料のプレス時に発生する製品の欠肉を自動で検査するシステム。また、IoTを活用してデータの収集と分析にも取り組む。高橋社長は「工場を完全に無人にするのではなく、人が介在する部分をいかにデータ化するか考えた。設備の稼働状況を把握すると同時に、作業者の気付きや行動を可視化する仕組みを構築した」と説明する。

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