「近未来の工場」が市場を決める/ボーイングジャパン ウィル・シェイファー社長
単通路の小中型機の回復が顕著
――足元の市場環境はいかがでしょうか。
新型コロナウイルス禍の影響は大きく、2020年には落ち込みましたが、21年からはかなり戻りました。単通路の小中型機の需要回復が顕著です。ただ、国内線は対19年比で75%ほどまで戻りましたが、国際線の数が同25%程度とまだ低迷しています。北米、中南米、欧州などでは人の移動も活発化してきましたが、日本を含むアジアはまだまだです。しかし、中長期的には航空機産業は成長すると見通しています。19年に立てた予測よりは、このコロナ禍の影響で若干の減速が見られるものの、10年後の32年には新規開拓と置き換え機の比率で言うと、6:4と新規市場の方が拡大すると予測しています。
――ロシアのウクライナ侵攻の影響は。
ロシア領空を旅客機が飛べないため、アジア-欧州間やアジア-北米間の運行に大きな支障が出ています。また、ロシアにはVSMPO-AVISMA(アビスマ)という世界最大のチタン材メーカーがあり、わが社も大量のチタン材を調達していました。素材も鍛造品などの素形材もです。世界中の航空機メーカーも同様でしょう。しかし、今回のウクライナ侵攻を受け、一切の購買を停止しました。代替調達先の確保には迅速に動けたので何の問題もありません。ただ、今後も安定的に調達するにはさらなる調達先の開拓が必要になります。米国国内はもちろん、日本や東欧なども候補です。
設計開発から製造まで多くの変化
――航空機の製造面での変化は。
50年前と現在を比較すると、明らかにアルミやチタンなどの一体型部品が増えています。同時に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など軽量で高強度な複合材も増えました。加えて、最近のトレンドで言うと、切削部品からアディティブ加工(付加製造)部品への置き換えも進んでいます。それらの動きと並行する形で、開発設計でもいくつもの大きな技術変革が出てきました。
――詳しくお願いします。
近年の事例としては、現物の試作品ではなくデジタルデータを使って開発設計する、モデル・ベース・エンジニアリング(MBE)の導入があります。軍用機部門で先行して使われはじめ、最新の複座型ジェット練習機「T-7Aレッドホーク」がMBEで作られました。こうした技術は、ゆくゆくは民間航空機部門でも適用される見通しです。当然、サプライヤー各社にもMBEに対応するためのシステムの導入や技術開発力の向上をお願いすることになるでしょう。
――他に大きな変化はありますか。
製造現場における変化では、フル・サイズ・デターミナント・アセンブリ(FSDA)という生産方式の導入を進めています。従来の生産方式では、部品加工時には下穴だけを開けておいて、最終組み立て時に仕上げ穴を開けて締結していました。しかし、このやり方だと、最終組み立て時に、まず仮組みで締結部品同士の穴位置を調整し、ジグに固定して仕上げ穴を開けて、切りくずの掃除をして、ようやく締結工程に入るわけです。これでは組み立て工程のリードタイムが長すぎます。そこでわが社が導入を進めているのは、部品加工時に高精度で高品質な穴を開けてしまい、最終組み立て工程では締結するだけ、というシステムです。これにより組み立て工程のサイクルタイムを劇的に短縮できます。
――設計開発から製造まで多くの変化が起きていますね。
同時に、先行製品品質管理計画(APQP)の導入も進めています。これは、自動車産業で発達した手法で、新製品の開発や設計の段階で、同時に品質計画も進める方式です。ただ、MBE もFSDAもこのAPQPも、ボーイング一社での取り組みというよりも、サプライヤーと共に進めなければ機能しないことなので、各社への協力をお願いしています。