ロボット用ソフトで働き方を革新――浜松発スタートアップが目指す未来【前編】/リンクウィズ村松弘隆取締役(1/3)
3つの要素が必要
――まずは会社概要を教えてください。
当社は2015年3月に浜松で創業しました。5年目を迎えたスタートアップ企業です。代表の吹野と取締役の鈴木紀克、そして私の3人で会社を立ち上げました。現在は産業用ロボットに特化したソフトウエアを開発し、販売しています。従業員数は19年2月末時点で、われわれ3人の役員を除いて21人。資本金は、資本準備金を含めて2億3700万円です。
――具体的にはどのような製品を手掛けていますか。
全数検査用のロボットシステム「L-QUALIFY(クオリファイ)」と、ロボットのティーチング自動生成システム「L-ROBOT(ロボット)」の2つの製品をラインアップしています。当社は「人の業(わざ)を受け継ぐロボティクスで働き方を革新する」とのミッションを掲げており、達成に向けてこれら2つの製品を開発しました。当社のソリューションには、ロボットと市販の3次元(3D)スキャナー、当社のソフトが組み込まれたコントローラーの3つの要素が必要です。これらを生かすことで、産業用ロボットが3D形状処理、つまり物体の形状を3Dで認識でき、顧客のものづくりに新しい価値を提供できます。
溶接したワークの検査に
――「L-QUALIFY」はどんな用途で使われますか。
溶接したワーク(加工の対象物を意味するワークピースの略)の検査に特に力を発揮します。自動車産業では金属と金属を接合するのに、放電現象を利用して金属同士を溶かしてくっ付けるアーク溶接が使われます。アーク溶接をすると「溶接ビード」と呼ばれる、溶接痕の盛り上がりが生じます。L-QUALIFYは、溶接ビードの外観を産業用ロボットで検査するためのロボットシステムです。産業用ロボットに取り付けた3Dスキャナーが人の目に代わって外観をスキャンし、ソフトで解析することで良品か不良品かを判別します。
――溶接したワークの検査はこれまでどのようにやっていたのですか。
人が目視で全て検査していました。自動車産業では1日に大量の部品を生産します。例えば、あるワークを1日に1000個作るとしましょう。ワーク1個あたり、アーク溶接を施した箇所が10カ所あるとしたら、作業者が1日に1万カ所を目視で検査する必要があります。
形状の誤差を色分け
――私だったら途中で意識が遠のきそうです(笑)。L-QUALIFYはこの課題を解決するシステムなんですね。
L-QUALIFYは、ロボットがまず3Dスキャナーで検査対象の溶接ビードの点群データを取得します。点群データとは点の集合体で、溶接ビードの形状をXとYとZの座標で表します。つまり、形状を座標として数値化できるわけです。良品時の溶接ビードの3D形状をロボットにあらかじめ覚えさせておき、検査したい形状と良品の形状をソフト上で重ね合わせて比較します。その結果、例えば良品との形状の誤差が±0.2mm以内なら緑色、0.4mm以上大きければ赤色、小さければ青色といった形で、スキャンした形状をサーモグラフィーのように色分けして表示し、あらかじめ設定したしきい値に基づいてOKかNGかを判別します。ロボットが全数検査を担うことで、従来の目視検査の手間を合理化でき、不良品の流出を抑制できるのが大きな特徴です。
――検査対象の形状を数値で表わすことで良品との比較ができる。
そうです。形状を座標で表示することで得られるメリットは他にもあります。例えば、ワークに穴があった場合、その穴の中心点も座標で表せます。そこから穴の径を算出することができますし、2つの穴があった場合には穴と穴との中心間の距離も座標から導けます。通常、穴の検査には専用の検査器具を使いますが、こうした検査にも人手がかかりますよね。L-QUALIFYを使えば、こうしたところにもロボットを活用でき省人化が図れます。この他、全ての検査データを残すことができるため、トレーサビリティーデータ(追跡可能な履歴データ)としても有効です。