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2019.11.01

[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.8]第3ラウンドは本社へ、技師長職で社会活動【前編】/小平紀生

過去には日本ロボット学会の第16代会長(2013~14年)を務め、現在も日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長など、ロボット業界の要職を数多く務める三菱電機の小平紀生氏。黎明(れいめい)期から40年以上もロボット産業と共に歩んできた同氏に、自身の半生を振り返るとともに、ロボット産業について思うところをつづってもらった。毎月掲載、全12回の連載企画「随想:ロボット現役40年、いまだ修行中」の第8回。小平さんは2005年に三菱電機の主管技師長となり、産学連携のプロジェクトなどに関わり始めた。

33年ぶりに東京へ

主管技師長時代、三菱電機の海外担当者たちと

 1992年から10年余りのうちに、ロボット事業に関わる管理職を一通り経験しました。バブル経済崩壊後の厳しい事業体制からスタートし、少し上向いてきたと思ったら今度は2000年代初頭のITバブル崩壊。今度は本質的な事業価値の見直しを迫られました。
 ともかく苦しい状況が続きましたが、何とかロボット事業も安定してきた05年に主管技師長に任命されました。

 三菱電機の技師長職は、直接的な組織管理から解放されて、社内外での独自の活動が可能になるため、成果はまさに本人次第というユニークな職位です。会社生活も、第1ラウンドである18年間の研究開発、第2ラウンドの13年間の事業推進を経て、自由度の高い第3ラウンドに入りました。
 視野と分野を多少広げて、社内の技術強化活動に加え、業界活動や学会活動などロボットに関わる社外活動も全て引き受けることにしました。

 またこの頃、年相応のプライベートな変化もありました。高齢の義母が転倒骨折により寝たきりになったため、家内が介護のため毎週末に名古屋から東京に通うようになっていました。技師長職となりもはや名古屋にこだわる必要も一切なくなったため、会社に申し出て07年に本社に異動となり、33年ぶりに生まれ育った東京に戻ってきました。会社生活最後の異動は家内への最大のプレゼントだったかもしれません。

 この異動は私の技術者人生にも大きな変化をもたらしたと思います。その後、徐々に社外活動に軸足を移していくことになり、仕事上のお付き合いも従来の会社人脈からさまざまな方向へと拡大していきます。
 13年に60歳になると肩書きも主席技監に変わり、今では、仕事の大部分が社会貢献活動になっています。次回以降、学会や業界活動などのそれぞれの社外活動についてお話ししますが、今回は技師長職として関与した社内活動について整理しておきます。

セル生産と知能化

 事業の管理責任を負っていると、担当事業の経営数値以外の客観評価は意外とできていないことがあります。事業の中にいる時から気にはなっていたものの、技師長職になって一歩離れてからはっきりと意識したのは、市場に対して明確なメッセージを出せているかどうかでした。
 例えば、「三菱電機は組み立て作業に適した小型ロボットが強み」というそれとない看板はありましたが、「これは現状の説明であってメッセージとは言えないのではないか」という思いです。

知能化によりジグを減らしたロボットシステム

 キーワードの一つは前回も話題にしたセル生産です。セル生産の場合は同じロボットが複数の作業をこなすため、ライン生産の用途よりも知能化機能が必要です。
 知能化とは「賢ければそれに越したことはない」という感覚的な話ではなく、製造用設備としてはコストダウンや品質向上など何らかの定量的な価値を生み出さなくては何の意味もありません。
 セル生産での知能化の目的は、加工補助具(ジグ)を減らすことと部品供給を簡略化すること。これによりシステムを最小限の周辺機器で構成してコストダウンと信頼性向上を図る、というシナリオが成り立ちます。
 製品コンセプトや研究開発行為がこのシナリオに沿っていれば、「知能化セル生産」は事業メッセージになるわけです。

国プロと産学連携への取り組み

 折から、後に副社長まで務めた当時の三菱電機先端技術総合研究所の久間和生所長(現農業・食品産業技術総合研究機構理事長)の指導で、国が支援する開発プロジェクト(通称国プロ)の「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」と「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」に参加することになりました。

――後編へ続く
(構成・編集デスク 曽根勇也)



小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。

※本記事の再編集版は設備材やFAの専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。


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