[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.11]注目高まるSIer 、協会設立までの道のり【前編】/小平紀生
SIerはパートナー
今も昔も、産業用ロボットの二大ユーザー分野は自動車と電機・電子です。これらのユーザーは自社で自動化のためのシステムエンジニアリング能力を備えていることが多いのですが、他分野のユーザーの場合「誰がシステムを構築するのか」は常に悩みの種でした。
ロボットユーザーの多様化が進んだ2000年ごろから、三菱電機ではシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)との協力関係の強化を目的に、独自のSIerパートナー会を始めました。最初は、地域や分野ごとにSIerを厳選していました。
しかし、時を経て考え方は「抱え込み」から「裾野拡大」に変化しました。10年ごろ、他社製ロボットを中心に採用してきたSIerにも働きかけたところ、意外と歓迎されました。実力のあるSIerにとっては、ソリューションの幅が広がるメリットが大きかったようです。
この頃から、複数メーカーのロボットを使いこなす、実力のあるSIerに採用されることが本質的な製品競争力の証しとの意識が強くなりました。
SIerの産業価値
2000年代にはロボットメーカー各社が、それぞれSIerをパートナー化する活動をしていました。
しかしSIerが一つの業界として注目されることはあまりなく、こうした状況が変わり始めたのは10年ごろからです。
10年1月、経済産業省のヒアリングに対し「今後のロボット産業ではSIerが重要」との話をしました。その話が実を結んだのだと勝手に思っていますが、同年6月に公表された「産業構造ビジョン2010」には「システムインテグレーターの育成が急務である」との文言が入りました。経産省がSIerに言及したのはこの時が初めてではないかと思います。
同年7月に経産省の委託事業として「ロボット技術導入事例集」の制作が始まりました。これには私も編集委員として参加し、その成果は11年3月に公開されました。
今でもこの資料はウェブ上で閲覧できますが、巻末に「システムインテグレータとは」という参考資料を付けました。編集委員の間でもSIerの位置付けについて議論がありましたので、SIerの産業価値を共通認識とするために整理したものです。
日本ロボット工業会(現会長・橋本康彦川崎重工業取締役)でもSIerを会員として取り込めないかという検討を10年9月から開始しました。
私が部会長を務めていたエンジニアリング部会を「システムエンジニアリング部会」に名称変更し、また「ロボットエンジニアリング業界活性化検討会議」を設置しました。
ロボット工業会でSIerの組織化活動を始めたわけですが、なかなか情報が集まらない。何しろSIer自身にSIerであるとの認識が薄く、さらに組織することに意義が見いだせていないという背景がありました。
後のSIer協会発足に直結する流れが始まるのは15年ごろからです。
組織化が始まった
14年に安倍晋三首相によりロボット革命実現会議が招集されました。この会議を受けて15年に「ロボット新戦略」が示され、ロボット革命イニシアチブ協議会(RRI、現会長・大宮英明三菱重工業相談役)が発足しました。
RRIではロボットの利活用促進に関するワーキンググループ(WG)2で、ロボット工業会を事務局としてSIer業界の活性化に関わる活動を展開しています。前回ご紹介した、SIerの業務プロセス標準(RIPS)はWG2の成果です。
さらにこの流れで経産省では16年から3年間の「ロボット導入実証事業」と、17年の「ロボットシステムインテグレータ育成事業」を実施。「導入実証事業」では先進的なロボット活用の取り組みを300件、「育成事業」ではSIerの事業充実のための活動80件が採択されました。
ロボット工業会としては、なかなか集まらなかったSIerの情報がこの活動を通じて300件以上、目の前に広がったわけです。このあたりから一気に、SIerを組織化する流れに勢いがつきます。
――後編へ続く
(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)
小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。
※本記事は設備材や工場自動化(ファクトリーオートメーション=FA)の専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。
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