[SIerを訪ねてvol.48]金型とSIerの二刀流を武器に/丸正精工
SIerという言葉さえ知らなかった
丸正精工は1970年の創業以来、自動車関連の金型製造で事業を拡大してきた。特に「ハイテン材」と呼ばれる引っ張り強度が高い金属材料を加工する金型を得意とし、主に自動車のシート部品やハンドル周りの部品向けの金型製造を手掛ける。近年は金属加工分野を対象としたSIer事業にも力を入れており、ワーク(被加工物)の脱着や工具ホルダーの交換などを自動化する協働ロボットシステムなどを提案する。
同社がSIer事業に新規参入したきっかけは、パイプの加工を自動化する金型システムの製造を取引先の自動車関連企業から2017年に依頼されたことだった。このパイプは自動車シートの骨格部分に使われるもので、従来こうしたパイプは複数の異なる工程で加工する必要があり、工程ごとに金型や加工機が必要だった。これに対し、同社は複数の異なる加工工程を自動的に切り替えられるシステムを開発。ワークの番号を入力することで、金型が自動的に交換され、パイプの曲げからつぶし、さらにヘッドレスト取り付け部分の加工まで対応できるようにした。
今吉社長は「わが社は金型一筋でやってきたから、最初はSIerという言葉さえ知らなかった。しかし、自動化の案件に成功し、『金型メーカーでも自動化ができるんだ』と自信を持てた」と話す。
また、主要取引先の自動車業界は「100年に一度の大変革期」に直面しており、業界全体で電気自動車(EV)シフトが進みつつある。同社はこうした状況を受け、「既存の金型製造だけに依存していては、将来的にわが社もEVシフトの影響を受けるかもしれない」と判断し、22年にSIer事業に新規参入。「クラエボ」ブランドを立ち上げ、ジグ(ワークを固定する補助器具)と協働ロボットを使った自動化・省人化のトータルソリューションの提供に本腰を入れ始めた。
一気通貫で対応できる
製造部の長谷川信部長は「金型製造で培った加工技術があるからこそ、ジグ類は全て自分達で加工できる。SIerはロボットは扱えるが、ジグは作れない企業も多い。われわれは顧客が導入したいロボットシステムに適したジグが作れるため、もう一歩踏み込んだ自動化の提案ができる」と胸を張る。
また、同社は中部地域の中小部品加工メーカーが加盟する中部部品加工協会(名古屋市名東区、村井正輝代表理事)の「省人化アライアンスチーム」にも所属している。同チームは、中部部品加工協会に所属する企業で構成された自動化の専門チーム。各社が持つ専門技術を生かし、協力し合いながら、一つの自動化システムを完成させる。ソフトウエア開発会社や金属加工会社など幅広い分野から12社が参画している。
長谷川部長は「部品供給機(パーツフィーダー)など内製が難しい製品もあるため、省人化アライアンスチームとも密接に連携している。自動化システムを構築する際に、自社で補えない部分をお互いにサポートできるのが大きな強み」と語る。
ショールームを開設
技術者の採用と育成が課題
長谷川部長は、目下の課題として技術者の採用と育成を挙げる。現在、同社では12人いる社員全員が金型と自動化システムの両方の事業に携わる。しかし、自動化システムの案件をメインで担当するメンバーはまだ2人しかいない。そのため、現在は技術者の育成を目的に自動化の講習や勉強会などに多額の投資をしているが、SIer事業に参入して間もないだけに一人前の技術者を育成するには時間がかかるという。
長谷川部長は「技術者を育てるには、自動化や省人化の案件を成約し、社員に経験を積ませることが重要だ。仕事が増え、売り上げが伸びれば、人員も増強できる。だからこそ、クラエボの存在を多くの人に知ってもらう必要がある」と話す。そのため、同社はショールームの活用に加え、中部部品加工協会が主催するイベントや、日本国際工作機械見本市(JIMTOF)・ロボットテクノロジージャパン(RTJ)などの展示会にも積極的に参加し、クラエボのPRに努める。
今吉社長は「金属加工の製造現場ではこれからも自動化や省人化の需要が増すだろう。金型メーカーとしての『丸正精工』とSIer事業の『クラエボ』の二刀流を武器に、金属加工分野の自動化や省人化に貢献したい」意気込む。
(ロボットダイジェスト編集部 山中寛貴)
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