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2020.08.20

軟らかいものをどうつかむ? ~ソフトハンド開発動向【後編】

磁力で硬軟自在

 九州工業大学工学部の西田健准教授は、独自素材「MRα流体」を使ったソフトハンドを研究する。MRα流体は、磁力で軟らかくなったり硬くなったりする「MR流体」をベースに開発した。

 MRα流体を封入した半球状のグリッパーをつかむ物に押し当て、グリッパー表面が変形したところで磁界を発生させると、そのままの形で硬くなり、物をつかめる。小さな物は一つのグリッパーで、大きいものは左右から二つのグリッパーではさんでつかむ。
 電気で磁界を発生させるので、動作音は小さい。

 西田准教授は前田機工(山口県下関市、中島孝弘社長)と共同で製品化に取り組み、「万能電動グリッパMRα」として2017年12月に発売した。
 19年4月には北九州工業高等専門学校の滝本隆准教授と共同で大学発ベンチャー企業KiQ Robotics(キックロボティクス、北九州市小倉北区、滝本隆社長)を設立。グリッパーだけでなく、ロボット関連の研究成果の事業化を目指す。

  • 形や硬さを問わず、さまざまな物をつかめる

  • 2015国際ロボット展での展示

自由な発想が新技術を生む

 ソフトロボティクスの世界では、既存製品にとらわれない着眼点や発想で研究が進められている。
 立命館大学の平井教授は従来の多指ハンドの発展形として、3Dプリンターを使うことで製造コストを削減。関西大学の高橋准教授や九州工業大学の西田准教授は、つかむ原理からこれまでのソフトハンドとは全く異なる。

 ソフトハンドは構造次第では対象物の位置や向きが多少ずれても物をつかめるなどのメリットもあり、今後さまざまな分野での活用が期待できる。これから製品化されるソフトハンドには、ユーザーの視点では低コストで簡単に運用できること、システムインテグレーターの視点ではシステム構築が簡単にできることがなどが求められるだろう。今後も、独創的な発想によるユニークな構造のソフトハンドの研究開発が期待される。

――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 松川裕希)

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