「近未来の工場」が市場を決める/ボーイングジャパン ウィル・シェイファー社長
省人化やロボット化のアプローチも
――現状で見えている技術課題があればお願いします。
組み立て工程における作業者安全の確保です。これは前述のFSDAにも通じるところですが、いかに組み立て時の人の動きを削減するか、省人化するかといった考え方です。特に翼部や胴体部の締結や配線は、集中力を要する上に、かなり狭い空間での作業が求められます。こうした作業をいかに削減するか。製造工程における自動化やロボット化というアプローチもありますし、そもそもそうした工程があまり必要ない機体設計にも取り組まねばなりません。これはわが社にとって大きな挑戦です。
――なるほど。
もう一つの大きな課題は、素材のアップグレードです。特にCFRPをもっとたくさん使うにはどういう機体設計がいいのかを模索しています。一方、近年は環境対応や持続可能性の強化などが社会全体で求められています。アルミ系部品やチタン部品などは比較的容易にリサイクルできますが、CFRPは炭素繊維とプラスチックを分離することも難しく、リサイクル手法の確立が大きな課題となっています。
――大きな変化、課題を背景に、日本のサプライヤーに求めることは。
米国外で最大の調達国は日本です。コロナ禍による厳しい事業環境下でも、惜しみなく協力してくれている日本のサプライヤーには改めて感謝の意を表します。今後も日本のサプライヤーと共にボーイングはあり続けますし、MBEやAPQP、FSDAに一緒に取り組んでくれる強固なサプライチェーンを日本で構築する必要があります。特にFSDAでは高品質・高機能な工作機械や各種生産設備が必須ですから、部品サプライヤーにはそれらを使いこなし、部品を安定供給する能力が求められます。極端に言えば、市場の動向とは「近未来の工場」がどうあるかにかかっていると私は考えます。品質向上、コスト低減、生産性向上といった課題を同時に解決し、航空会社に競争力のある機体を提供できるかどうかは工場の力によるところが大きいからです。
(月刊生産財マーケティング編集長 八角秀)
※ロボットダイジェスト編集長 兼任
Will Shaffer(ウィル・シェイファー)
米海軍兵学校で海洋エンジニアリングを専攻後、海軍飛行士として10年間勤務。退役後、ハーバード・ビジネス・スクールで経営学修士号取得。製造業を含む各社で経験を積み、2013年にボーイング入社。民間航空機部門のサプライヤー管理ディレクター、サプライチェーン戦略ディレクターを歴任、2019年から現職。海軍時代に2度日本に派遣された経験がある知日派。米国モンタナ州出身。