生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2024.11.21

イベント

自動化やDXは「トップダウン×ボトムアップ」で、中小製造業向けのイベントを岐阜で開催/2024 ぎふ ものづくり × DX フェス

経営者が「文化作り」を

「最も重要なのは『文化作り』」と話すものづくり太郎氏

――第2部で講演されたものづくり太郎氏に会の口火を切っていただきます。日本の中小製造業が自動化やDXを推進する上で必要なマインドセットについて教えてください。

ものづくり太郎 最も重要なのは「文化作り」だと考えています。例えば、大手企業は改善活動やショートミーティングを日々実施することを会社の文化として根付かせています。一から文化を作り上げるのは大変な取り組みですが、これができるのは経営者しかいません。経営者が強制力を発揮し、改善活動やショートミーティングなどを実施する文化を醸成しなければ、現場サイドも決して変わりません。こうした文化が作れれば改善活動がその会社の中で当たり前の取り組みになりますから、生産現場へのロボットの導入や普及にもつながるでしょう。結局は経営者がどこまで腹をくくれるかが重要ですね。

ロボット導入がブランディング戦略に

「自動化しやすい工程から順にロボットへと置き換えた」と話す光洋陶器の加藤伸治社長

――続いてロボットユーザー2社にお聞きします。ロボットを導入した工程や導入成果などについて詳しく教えてください。まずは光洋陶器の加藤社長からお願いします。

加藤伸治 「釉薬(ゆうやく)」と呼ばれる液体を陶器に塗る工程や、陶器を搬送する工程に垂直多関節ロボットやスカラロボットなどを導入しました。作業自体はそこまで複雑ではないため、これまで職人の暗黙知に基づいていた作業工程を一つ一つ丁寧に可視化した上で、自動化しやすい工程から順に人手からロボットへと置き換えました。今では釉薬を塗る工程については全体の7割近くが自動化できています。ロボットを入れたことで職人の技能を平準化できましたし、多品種少量生産でも安定的に食器を供給できるようになりました。その結果、より付加価値の高い商品を開発するのに人的リソースを割ける体制が構築できました。

――次は有川製作所の有川社長にうかがいます。通常はSIerにロボットシステムの構築を依頼するケースが多いですが、御社は協働ロボットシステムを内製しました。内製化に踏み切った理由も併せて教えてください。

有川富貴
 より良い協働ロボットシステムへと改善するためには現場への定着率を高めることが重要だと考え、内製化にチャレンジしました。社内にはロボットに知見を持った従業員はいませんでしたが、やりたい人を募って専任担当者を決めて自動化のプロジェクトを始動しました。当然、分からない点がたくさん出てきますから、ロボットメーカーや技術商社とも連携しながら3社でプロジェクトを進めました。協働ロボットシステムを導入したことで単発プレス加工や検査の作業を担う従業員の残業がなくなりました。また、会社のブランディング戦略の強化につながったのも大きなポイントで、この4年間で新たに8人採用できました。

現場をいかに巻き込むか

「専任担当者のやる気をいかに引き出すかが大事」と話すヒューマテックジャパンの永井伸幸社長

――幅広い企業の自動化を支援してきたヒューマテックジャパンの永井社長にお聞きします。中小製造業が自動化を推進する上で何が重要なポイントになりますか。

永井伸幸
 私は昨年10月までSIerの役員として、さまざまな業界のお客さまにロボットシステムの提案や導入支援をしてきました。その経験から言うと、専任担当者のやる気をいかに引き出すかが自動化を進める上で大事な要素になると考えています。専任担当者が興味を持ち、わくわくしながら仕事ができる環境を作れるかどうかは経営者の腕にかかっています。こうした環境を構築できる企業はおのずと自動化に成功するでしょう。ただ単に命令されたからやるだけ、という目的意識が希薄な環境で専任担当者がロボット導入の仕様書を作ったり、SIerに丸投げしたりすると、導入後の運用がうまくいかずに失敗に陥ります。

「トップダウンとボトムアップのバランスをうまく取らないとDXは成し遂げられない」と話すしぶちょー氏

――これまではロボットや自動化の話が中心でしたが、DXも中小製造業の競争力を高める重要な要素です。中小製造業がDXを推進するに当たって意識すべきポイントは何でしょうか。しぶちょー氏にお聞きします。

しぶちょー
 まずは私のキャリアについて少し紹介します。工作機械メーカーで機械設計に10年ほど携わった後、AI技術やモノのインターネット(IoT)技術の研究開発部門に異動しました。現在はAIエンジニアとして勤務する傍ら、「しぶちょー」という名前で製造業関連の情報発信やテクノプラザの広報大使なども担っています。さて、ご質問の内容について、DXを推進する上で大事になるのはロボット導入と同様、いかに現場を巻き込むかです。現場の意向を踏まえずにDXソリューションを導入すると、現場の反発を招きかねません。また、IoT技術によって可視化されたグラフだけが評価対象になってしまうと、現場サイドでデータを都合のいいように操作するリスクも懸念されます。ですから、トップダウンとボトムアップのバランスをうまく取らないとDXは成し遂げられません。

――自動化やDXを実現するには、経営者のトップダウンと専任担当者を中心としたボトムアップの両輪が欠かせないのですね。パネラーの皆さま、ありがとうございました。

(構成・司会 ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)

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