[特集SIerになろうvol.4]製造業からSIerへ【その2】/ヒロテック
キャパ10倍の引き合い
「自動化の引き合いは増える一方で、高い需要が続くのは確実。SIerがビジネスとして成立する条件は整った」――。そう話すのはヒロテック(広島市佐伯区、鵜野徳文社長)の生産技術研究所の国枝潤主幹。同社は自動車のドアや排気系部品を製造しながら、積み重ねた技術力を生かしSIerとしてシステム開発を請け負う。「自動機屋」「専用機屋」から参入した[Vol.3]の戸苅工業とは少し事情が違う。自社工場の24時間365日無人稼働を目指しており、自社が持つ自動化のノウハウをSIerとして転用しながら、SIerを通じて新たに得たノウハウを、自社設備にも還元する方針だ。
SIerの機能を担うのは生産技術研究所ロボティクス研究室。2015年以降、自社設備の開発をしながら、SIerとして他社の生産設備の自動化を手掛ける。あくまで自社設備向けが本業で、他社の設備を開発するのは年間数社のペースだが、引き合いは右肩上がり。「紹介営業だけでも、開発できるキャパシティー(容量)の10倍の引き合いがある」と国枝主幹は話す。
いかに将来の収益につなげるか
どれだけ引き合いが増えても、収益に結びつかなければ事業化は難しい。従来はシステムの全体像を決める構想設計を無償ですることもあったが、仕様を流用して別のSIerに比較見積もりを出されてしまうケースもあり、有償のサービスにした。
「有償でも構想設計を発注するのは、本気で自動化を望む気持ちの表れ。キャパに余裕がないので、引き合いにもある程度フィルターをかけざるを得ない」と国枝主幹は語る。
ボトルネックは人材だ。SIerを独立した新事業として立ち上げるには技術者の増員が不可欠。現在ロボティクス研究室に所属するのは8人で、「今のところ事業を独立させるめどは立っていないが、数十人規模になれば事業化が考えられる」と国枝主幹は話す。
増員のため、大学の研究室と連携したり展示会でPRするが、採用につなげるのは容易ではない。国枝主幹は「SIerの認知度向上と地位向上に取り組む必要がある。われわれだけでは困難で、業界をあげて取り組むべき」という。
ただ、仮に増員してキャパを拡大できても、1社で全てのシステムインテグレーションを請け負えるはずもない。国枝主幹は「SIerを増やし、連携を高めるのが重要。企業という『点』で大きな需要を受け止めるのは難しい。たくさんの企業が結びついた 産業という『面』でしっかり受け止めなければ。SIer業界全体を盛り上げることが、われわれのメリットにもつながる」と力を込める。
現場に近い環境で技術者育成
ヒロテックのように人材不足に悩むSIerにとっては、採用後の教育も課題の一つ。まして、これからSIerに参入する企業にとっては、技術者の育成は一層重要性の高い課題だ。そこで、同社は技術者育成に役立つシステムの製品化を模索している。
昨年12月に広島市で開催された「ひろしまAI・IoT進化型ロボット展示会2018」で展示したのは、新人技術者のための教育用セル。この教育用セルは、ファナックの協働ロボットを核として、搬送装置や人の接近を察知するレーザースキャナー、搬送する物の形状や重なりを検出する2次元と3次元のビジョンセンサー、CADで設計した自動化システムをパソコン上で動作検証するシミュレーターなどで構成される。
現場で使われることの多い周辺機器を一通り組み込んであるので、新人技術者は現場に近い環境で学ぶことができ、研修の成果も上がりやすい。「今は試験的に自社の新人教育用に活用しているが、将来的には販売を視野に入れて取り組む」と国枝主幹は話す。
――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 松川裕希)
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