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2019.03.28

連載

[気鋭のロボット研究者vol.6]機械同士が「心」を通わす【前編】/岐阜大学山本秀彦教授

工場の生産性向上や自動化への取り組みに多くの企業が注力する。山本秀彦教授は、人工知能(AI)システムを利用した工場の知能化の研究を進める。無駄のない設備のレイアウト、無人搬送車(AGV)や双腕ロボットの作業効率の向上を実現し、モノのインターネット(IoT)を使った工場全体の最適化を提案する。

双腕? それともロボット2台?

 「基礎技術ではなく、企業と共同研究して実用性の高いシステム開発を手掛ける」と山本教授。AIシステムを使った最適な工場レイアウトを実現する研究は、さまざまな分野に適用できる。

最適なユニットの場所と作業手順を双腕型ロボットに指示

 例えば、双腕型ロボットによる「セル型組立機械の自動レイアウト設計」だ。AIを取り入れた独自の「UNARMシステム」を使い、双腕ロボットの左右の腕がぶつからないように、それぞれの作業手順を設定する。
 組立作業をさせる場合、部品点数や作業の内容を入力することで、左右の腕それぞれがつかむ部品をどこに置き、どの順番で組み立てればいいかを割り出す。実際に自動車のモーター組み付けで導入されたケースもある。

 UNARMシステムは双腕型に限ったものではなく、垂直多関節ロボットにも使える。双腕型の代わりに多関節ロボットを2台設置した時の作業時間も割り出せるため、どちらを導入したら効率的かを比較することもできるという。

AGVが道を譲る

 工場を最適化するための研究は、1990年代までさかのぼる。ただし当時は、工場の生産ラインを研究室で組むわけにはいかず、シミュレーションで証明した。
 最近になり、AIの性能が上がったことで、できることも増えた。
 IoTで機械などの設備から情報を集めることも、工場の知能化には必要だ。ロボットや機械が情報、知識を共有できることを生かし、最終的には「心」を持った設備同士が自ら意思決定をするIoT工場を目指す。
 例えば、走行中のAGV同士がぶつかりそうになると、これまでは互いに停止していた。しかし「心」を持たせることでどちらかが道をゆずる選択を取り、衝突を避けながらスムーズな部品の運搬につなげられるという。

道を譲り合うことでスムーズな運行が可能(山本秀彦教授提供)

 左の動画は「謙虚(青)」と「傲慢(ごうまん、赤)」の心を持たせたAGVが、一斉に部品を取りに1カ所に集まった時のシミュレーションだ。
 AGV同士が向かい合った時に赤から青へ、心変わりをして道を譲るのが分かる。
 「既定のプログラムだけでは渋滞して止まってしまうが、心を持たせるとそんなことはなかった」と山本秀彦教授は話す。

――後編へ続く


(ロボットダイジェスト編集部 渡部隆寛)



山本秀彦(やまもと・ひでひこ)
岐阜大学 工学部 教授
1972年名古屋工業大学大学院修士課程修了、豊田自動織機入社。91年名古屋工業大学大学院博士課程修了、92年豊田自動織機退社。和歌山大学助教授などを経て2004年から現職。現在、生産技術分野の知能化を中心に設計から生産ライン稼働に至るシステム開発を続ける。近未来のものづくり生産の実現に向けて企業との共同開発に取り組む。愛知県出身の63歳。

※この記事は「月刊生産財マーケティング」2019年4月号に掲載した連載「今に花咲き実を結ぶ」を再編集したものです


関連記事:[気鋭のロボット研究者vol.6]/岐阜大学山本秀彦教授【後編】(5月上旬アップ予定)

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