[注目製品PickUp! vol.43]ワークも爪もこれ1台、導入しやすいパッケージ/松本機械工業「Smart Terrace」
ターゲットは変種変量生産を担う中小企業
松本機械工業は、チャックや円テーブルなどの工作機械用の周辺機器を製造、販売する。チャックとは複数の爪でワークを固定する補助器具の一つ。主に「旋盤」と呼ばれる、円筒形状のワークを加工する工作機械に取り付けて使用する。
チャックの爪はワークの形状に合わせて事前に成形する必要があり、通常は加工するワークが変わるたびに爪を交換しなければならない。製造現場ではこれまで、その爪交換の作業を人が手作業で担っていた。
最近は消費者ニーズの多様化などを背景に、製造業の生産形態は従来の大量生産から変種変量生産や多品種少量生産にシフトしつつある。変種変量生産になると、加工するワークが頻繁に変わるため爪交換の作業も増え、その分手間がかかる。同社は変種変量生産の自動化ニーズに応える目的で、ロボットを使った爪交換の自動化に2018年ごろから本格的に取り組み始めた。
松本社長は「爪交換の自動化提案の主なターゲットは、変種変量生産を実際に担う中小企業。しかし、中小企業の多くはロボットに不慣れで、システムの仕様を決めるのにどうしても時間や人手がかかる」と現状を語る。そこで、同社は中小企業が簡単にロボットを導入できるよう、爪交換の自動化に必要な要素を一つにまとめたパッケージシステム「Smart Terrace(スマートテラス)」を昨年5月に発売した。
早ければ2日で
スマートテラスは、爪交換の自動化に対応したチャック「ROBO-QJC」と垂直多関節ロボット、爪やワークを搭載する多段マルチストッカー、専用のロボットハンドなどで構成される。工作機械へのワークの供給や、チャックの爪交換の作業を自動化できる。
コンパクトで設置面積を小さく抑えられる上、パッケージシステムのため立ち上げも簡単で、中小企業でも導入しやすいのが特徴だ。ティーチング(動作を覚えさせること)も、ワークの受け渡しの部分とトレーの取り出し位置を教示するだけで済む。数値制御(NC)装置の種類を問わず、さまざまなメーカーの工作機械に取り付けられる。しかも、通信用ケーブルをつなぐだけで工作機械との接続ができるため、NC装置とロボットの制御機器の間の通信インターフェース(接点)について工作機械メーカーと個別に打ち合わせをする必要もない。
そのため、早ければ据え付けに1日、ティーチングに1日しかかからず、計2日で稼働するという。奥野直起開発部長は「従来はシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)、工作機械メーカー、チャックメーカーの3社がそろわなければチャックの爪交換が可能なロボットシステムを構築できなかった。これに対し、スマートテラスなら松本機械工業1社だけでシステムを提供できる」と強調する。自動化に必要な要素がパッケージ化されているため、仕様決めなどの打ち合わせの工数も削減できる。
また、多段マルチストッカーのトレーは作業者側に引き出せるため、ロボットが稼働している最中でも爪やワークをトレーに安全に搭載でき、段取り替え(セッティングの変更)の効率が高い。また、爪は加工対象のワークと一緒にトレーに置かれるため、爪の取り付け間違いも起こりにくい。オプションの電子タグ(RFID)を併用すれば、簡単な設定だけで操作ミスを防止でき、長期間にわたって安定した自動運転を実現できる。
現在はロボットの最大可搬質量に合わせ、12kg可搬の「AIO12」や16kg可搬の「AIO16」、10kg可搬でロングリーチ仕様の「AIO10L」、35kg可搬の「AIO35」、70kg可搬の「AIO70」の計5機種をラインアップする。当初はファナックのロボットだけだったが、安川電機の12kg可搬の「MOTOMAN(モートマン)-GP12」にも対応できるよう幅を広げた。
また、スマートテラスの派生品として、ストッカーをなくしたシンプルなロボットシステム「Simple Terrace(シンプルテラス)」も新たに開発。12kg可搬と16kg可搬の2種類を用意しており、ワーク搬送などの単純作業の自動化を低コストで実現できる。
さらに、同社は爪交換の自動化を推進するだけではなく、より安定した精度でワークを加工するための要素技術の開発にも力を注ぐ。その一環で、加工するワークの直径が変わった時でもチャックの爪のストロークを簡単に調整できるセンサー「リニアポジションシステム」を発売した。
松本社長は「顧客の要望を叶えるため、必要に応じて新機能や新製品を開発してラインアップを広げてきた」と述べる。