生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2020.11.24

インタビュー

人材・技術・環境、ロボ普及へ施策出そろう【その1】/経済産業省 石井孝裕ロボット政策室長

「未来ロボティクスエンジニア育成協議会」(略称CHERSI=チェルシー)や、技術研究組合「産業用ロボット次世代基礎技術研究機構」(略称ROBOCIP=ロボシップ)など、ロボット関連の組織の設立が相次ぐ。また、ロボットフレンドリーな環境実現に向けた研究開発事業も9月に始まった。2019年に政府の有識者会議がまとめた「ロボットによる社会変革推進計画」で示された施策が、本格的に動き始めている。経済産業省でロボット政策を担う石井孝裕ロボット政策室長に話を聞いた。

ロボット施策、四つの方向性

施策の四つの方向性(経済産業省「ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性~ロボットによる社会変革推進計画~」より引用)

――最近、ロボット関連の新たな施策が次々と発表されています。
 2018年10月、私がロボット政策室長に就任して3カ月が経過した頃に、FA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)の久保田和雄会長(=三明機工社長)と対談しましたその時の対談記事はこちらから。その際、「これからはロボット産業界が協調する取り組みが重要」「システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)は、金融機関などとの連携が必要」などとお話ししました。それらはすべて形になり始めています。具体的には、19年に内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省が合同で設置し、東京大学の佐藤知正名誉教授を座長に迎えて実施した「ロボットによる社会変革推進会議」で取りまとめた四つの方向性を具体化すべく、施策を展開しています。

――四つの方向性とは?
 「①導入・普及を加速するエコシステムの構築」「②産学が連携した人材育成枠組の構築」「③中長期的課題に対応したR&D体制の構築」「④社会実装を加速するオープンイノベーション」の四つです。

ロボットを活用しやすい環境をつくる

タスクフォース設立時の参画企業。現在はグルーヴノーツ、セブン&アイ・ホールディングス、東芝エレベータ、日本品質保証機構、日立ビルシステム、Preferred Networks、三菱電機も参画(経済産業省ニュースリリース「ロボットの社会実装を促進するためのタスクフォースを立ち上げました」より引用)

――具体的な施策の内容は?
 ①の「導入・普及を加速するエコシステムの構築」では、2つの取り組みを進めています。一つ目は、主にサービスロボットを活用しやすくする「ロボットフレンドリー」な環境の実現です。これに向けて、昨年秋に、経産省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)で「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」を立ち上げ、今年9月から具体的な研究開発事業もスタートさせています。ロボットは、所与の環境に後から導入しても、人の作業を完全に代替してくれると期待されがちですが、それは困難です。現状、ユーザーごとの個別の状況に合わせてロボットをカスタマイズし、システムとして導入していくため、コストも高くなる。これが、主にサービスロボットの普及を阻害している要因です。そこで、ロボットのユーザー企業を中心にタスクフォースを結成し、業務の流れや施設の仕様を標準化できるかなどを検討してもらい、ロボットを導入しやすい環境づくりを目指しています。サービスロボットを活用する業種、その中でも人手不足や最近のコロナ禍により非接触化が強く求められる業種を中心に検討を進めています。具体的には、施設管理、小売り、食品の3分野です。研究開発が必要な部分については、今年9月に発表した「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の採択企業が担っています。

――例えばどのような標準化を目指しますか?
 例えば、搬送ロボットがエレベーターを難なく使うことができれば、複数のフロアへ物を運ぶことができ便利です。しかし、現状では、エレベーターがロボット対応の仕様になっていません。そこで、エレベーターとロボットの通信形式の規格化などを検討しています。エレベーターとロボットが通信連携できれば、コントロールパネルのボタンを押さなくてもロボットが目的階まで移動できます。また、通信規格にとどまらず、床面、壁面の素材や通路幅などのハードウエア面でも推奨仕様をまとめ、ガイドライン化することを検討しています。いずれは世界のデファクトスタンダード(事実上の標準)化なども視野に入れます。自動車がここまで普及したのは、車道と歩道を分け、自動車が走りやすい環境を整えたというのも一つのポイントだと思います。ロボットフレンドリーな環境構築、つまり“ロボフレ”にすることはまさにこれと同じ発想です。最近は、「ルンバ」などのお掃除ロボットを使用する家庭も増えてきましたが、それに合わせて、ロボットによる掃除を妨げない「お掃除ロボット対応家具」も登場しています。ロボットは、所与の環境に後から導入しても人の作業を完全に代替してくれるはずだ、という考え方からパラダイムシフトしてきていると言えます。施設や業務を“ロボフレ”に変えていくことで、ロボットを使いやすくし、ロボットの普及が図れると考えています。

導入普及の鍵を握る地域の機関・企業をリスト化

「さまざまな企業や機関が連携し、ロボット導入を推進することが重要」と話す石井室長

――これまではロボットシステムを使用環境に合わせてきましたが、これからは使用環境もロボットに歩み寄るわけですね。
 その通りです。「導入・普及を加速するエコシステムの構築」で言うエコシステムは「ビジネス生態系」を指します。さまざまな生物が依存しあって生態系を構成するように、さまざまな企業や機関が互いに結びついて連携し、ロボット導入を推進することが重要です。

――もう一つの取り組みは?
 ロボットの導入を推進するには、「生産性向上の相談窓口となる業界団体や地元金融機関」、「生産性改善のコンサルティングをする機関や企業」、「ロボットシステムの構築を担うSIer」、「補助金や融資などで資金面をサポートする行政機関や金融機関」など、さまざまな機関や企業とが連携していくことが必要です。そこで、北海道から沖縄まで、各経済産業局と連携して、地域ごとにこうした関係機関、企業をまとめた「連携主体リスト」を作成しました。これが二つ目の取り組みです。特に地域の金融機関は生産性を高めたい企業、高める必要がある企業を把握していると思います。ぜひご活用いただきたいと思います。ウェブから誰でも見ることができます。

――②以降の施策については、インタビュー「その2」でうかがえればと思います。

(聞き手・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)

経済産業省 製造産業局 ロボット政策室長
石井孝裕
(いしい・たかひろ)
2005年3月早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年4月経済産業省入省、製造産業局参事官室配属。製造産業局自動車課課長補佐や産業技術環境局研究開発課課長補佐などを経て18年7月より現職。東京都出身、1981年2月生まれ。

関連記事:人材・技術・環境、ロボ普及へ施策出そろう【その2】/経済産業省 石井孝裕ロボット政策室長
関連記事:人材・技術・環境、ロボ普及へ施策出そろう【その3】/経済産業省 石井孝裕ロボット政策室長

TOP