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2023.02.13

職人の手作業をロボットに/光機械製作所

工具研削盤メーカーの光機械製作所(津市、西岡慶子社長)は、ロボットや画像処理ソフトウエアなどを駆使した自動化システムの開発に力を入れている。システム構築をワンストップで請け負える強みを生かし、職人の手作業からロボットへの置き換えを提案する。その取り組みの一環で、昨年2月には産業用カッターの刃付けを自動化するロボットシステムを産業用カッターメーカーに納入した。

自動化システムをワンストップで構築

取材に応じた深谷和裕第一製造部長(左)と安井大揮業務部長

 日本で一番短い地名として知られる三重県津市。同じく日本一短い駅名として有名なJR津駅から、車で北に5分ほど移動した先に光機械製作所の本社工場がある。
 同社は1946年の創業で、現在は主に工具研削盤と呼ばれる工作機械を製造、販売する。専用研削盤の設計、製作を得意とし、工具業界などの顧客のニーズにきめ細やかに応える小回りの良さを特徴に持つ。

 工具研削盤本体だけではなく、ロボットを含む自動化機器や測定機器、画像処理ソフトなどとも連携した自動化システムをワンストップで構築できるのが強みだ。
 第一製造部の深谷和裕部長は「窓口を一本化できるため、仕様変更や情報の伝達漏れを防げる」と一貫対応のメリットを語る。

 社内には工作機械関連のエンジニアだけではなく、ロボット制御やソフト開発の専任担当者も複数在籍しており、ロボットや画像処理と研削加工の技術を組み合わせた高度なシステムも内製できるという。

ばらつきにどう対応するか

産業用カッターメーカーに納入したロボット自動刃付け機のイメージ(提供)

 「工具業界では最近、職人技に依存していた作業をロボットに置き換える需要が増えた」と業務部の安井大揮部長は話す。
 こうしたニーズに応えた事例の一つが、国内の産業用カッターメーカーに昨年2月に納めたロボット自動刃付け機だ。そのメーカーではこれまで、職人が産業用カッターに手作業で刃付けをしていた。だが、作業には危険が伴うため、人材の採用が難しく、育成も思うように進まないという課題を抱えていた。

 光機械製作所は刃付け作業の自動化を実現するため、ロボットの活用を提案。ロボットが刃物の素材を把持しながら搬送し、回転する砥石(といし)に当てて刃を付けるシステムを開発した。要素技術を一つ一つ検証しながら、約3年かけて完成にこぎ着けた。

加工後に刃幅を機内測定して品質の安定化を図った(提供)

 深谷部長は「刃物の素材は厚みが一定ではなく、そのばらつきにどう対応するかが難しかった」と振り返る。
 ロボットはプログラム通りにしか動かないため、素材の厚みにばらつきがあると理想的な加工ができない。

 そこで、ビジョンセンサーを使って加工前に機内測定をし、厚みのばらつき分をロボット側にフィードバックする仕組みを取り入れた。加工後も再び機内測定をして刃幅が公差(許容される誤差の範囲)内に収まっているかを確認することで、品質の安定化も図った。

光機械製作所が手掛けた自動化システムの一例。ロボットが切削工具を搬送して機内計測をする様子(提供)

 また、高精度加工を実現するには熱変位対策も重要だ。金属材料は温度変化によって膨張したり収縮したりする性質を持つ。ロボットにも金属材料が数多く使われており、熱の影響を受けて材料の寸法が伸縮すれば、その分位置決め精度が狂ってしまう。そのため、同社は熱膨張が起こりにくく剛性(変形のしにくさ)が高いロボットの姿勢なども模索しながら、ロボット自動刃付け機の開発に当たった。
 素材をつかむ2爪のロボットハンドも内製した。素材の厚みが異なるため、プログラム通りに爪を開閉するだけでは素材をつかみ損ねるか、逆に強くつかんで傷つける可能性があった。そこで、片側の爪には位置ずれを吸収できる「フローティング機構」を採用し、課題解決を狙った。

 今回のロボット自動刃付け機の事例の他にも、自動化関連の案件は年々増加傾向にあり、足元では全体の受注の約7割を占めるという。「工具業界でも人手不足や職人の高齢化が進んでいるため、属人化した作業を自動化するニーズが非常に大きい。難しい案件も増えるが、ビジネスチャンスも広がるだろう」と安井部長は期待を寄せる。

(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)

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