バイスメーカーが提案する多品種少量生産の自動化とは【後編】/酒井正一ナベヤ常務
稼働時間は従来の2倍に
――提案する自動化システムを自社内でも使っているそうですね。
自動化向けのバイスはこれまでの製品よりも1案件当たりの必要数が多いため、製造する数も多く、生産性向上が必要でした。そこで、顧客に提案している自動化システムを自社にも導入することにしました。作業者が事前に素材とバイスをセットして指定の場所に置けば、ロボットがバイスを運び、自動で工作機械への着脱をします。人がいなくても、長時間の自動運転を実現しました。また、顧客に対し最も説得力があるのは、このシステムが実際に加工現場で動いている姿を見せることです。そのための営業ツールとしても役立っています。
――導入した効果は?
昨年取り入れたので正確な数字が出ているわけではないですが、通常の5割ほどは生産量を増やせました。改良を加えることで、最終的には1台の稼働時間を1日当たり、これまでの倍の20時間以上にするつもりです。さらに、1台のロボットで2台の機械に素材を供給させることも考えています。
――導入の手順は?
バイスの種類や位置を確認するセンサーの有無など、顧客に必要な項目をチェックしてもらい、顧客との話し合いをした上で、作業内容に適したシステムを提案します。サポート面は今後さらに強化する予定ですが、当社内でティーチングやシステムのセッティングができる人材を育成しました。また営業拠点のある北関東、東京、静岡、中部、大阪、九州の地域でSIerと協力し、顧客に近い場所からサポートできる体制を整えています。
――パッケージで提案すればコストも抑えられます。
顧客の仕様、ロボットの種類によって変わりますが、自社工場に導入した機械1台を自動化するタイプの場合、バイス10個と想定し、周辺機器やロボットを含めた設備価格の合計は500~700万円ほど。そこにSIerのシステム構築の費用が加わるので合計で約1000万円かかると思います。パッケージ化していない状態で同じようなものを作ってもらう場合には、設計から必要になるため、追加で500万円ほどコストが発生するのではないでしょうか。
次は研削盤の自動化を
――販売にも力を入れるそうですね。
当社の中でカタログに掲載する製品と顧客の要望を反映した特注品の売り上げの割合は半々です。今後はカタログ製品の割合を引き上げていくつもりです。そのなかでもウェブなどに掲載するだけで売れる製品と、自動化システム用のバイスのような提案型製品があります。提案力を高めるため、顧客の状況を見ながら組み合わせや効果を提示できる営業部隊「次世代ジググループ」を2年前に組織しました。SIerに顧客の仕様を伝えるには制御系やロボットなどの知識も求められます。製品を販売するには、製品だけでなく、人材もそろえなければいけません。
――今後の展開は?
まずは現状の自動化システムで自社の1人当たりの生産性をより高めること。そして受注量の増えるバイスの生産を増やし、即納に応えることです。さらに、今は素材の自動着脱システムはマシニングセンタと呼ばれる切削加工機用だけですが、これからは砥石(といし)で研削加工をする平面研削盤や、検査・計測システムの自動化にも挑戦します。これは自社工場の生産性向上のためにも取り組む課題です。研削は要求精度が高く自動化は一般的に難しいと言われていますが、許容される取り付け誤差が3μm以内なら問題なく自動化できると思っています。当社の工場には研削盤が10台以上並んでいますが、担当作業者は3人。加工素材の着脱作業の際は機械を止める必要があり、稼働率は4割ほどでした。これを自動化して稼働率を高め、作業を効率化しつつ新しい機械を購入するなどして生産性のさらなる向上を考えています。
――終わり
(聞き手・ロボットダイジェスト編集部 渡部隆寛)
酒井正一(さかい・しょういち)
1977年同志社大学化学工学科卒、78年岡本ナベヤグループ入社、2001年取締役新市場開発部長、11年常務。岐阜県出身の64歳。
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