[特集 国際ロボット展vol.2]アプリ開発、育成など続々/安川電機 津田純嗣会長
中長期では心配なし
――産ロボの市場環境の現状は。
厳しいですね。ただ、そもそも厳しくなるとの予測もありました。グローバルでの年間導入台数は2017年に40万台に達しましたが、その時で前年比32%も伸びたので、18年は横ばいだろうと見ていました。それでも18年は42万2000台で6%増えたので、19年は微増か微減と見ていましたが、一転して厳しくなる見込みです。
――19年が厳しい理由は。
ロボットの最大のユーザー業界は自動車で、次いでエレクトロニクスですが、その両方が落ち込んだことが大きい。自動車業界の投資には増産とモデルチェンジの2つの理由がありますが、時期がモデルチェンジの狭間だったうえに、ここ数年続いた増産投資もほぼ終わりました。エレクトロニクスのうちスマートフォン関連も、新機種の量産が遅れました。そこに米中貿易摩擦の影響が加わった形です。
――安川電機の現況は。
予想以上に需要が落ち込んだことで在庫が増えましたが、ある程度の在庫は調整でき、一旦小康状態に入ったと見ています。今は伸び出すタイミングを待っている状況です。
――今後の見通しは。
足元でも、増産はともかく自動化に対する意欲は予想以上に強い。ロボットがピッキングやパッキング、パレタイジングなど物流の領域でも、ごく普通に使われるようになったことが要因です。落ち込みが一番大きいのは中国ですが、米中貿易摩擦が需要そのものではなく、投資マインドにかなり響いている印象です。政治的な問題が絡むので、いつ戻るか予測するのが難しい。とはいえ今後も次世代通信の5Gやデータセンター関連の需要拡大が確実視されており、中長期的には心配していません。
AI研究に多角的なアプローチ
――ロボット関連の技術開発の状況は。
テクノロジーの進歩は、劇的ではありませんが着実にロボットを変えてきました。例えばAIでは、画像認識技術が進歩しました。ただし、1つのAIで何でもできるのではなく、AIをコアとしてさまざまなアプリケーションが開発されています。
――AIの研究開発体制は。
AIを扱う技術者には、三角形を3つに分けた層があると考えています。1層目は技術者というより数学者で、コアとなるAIを研究しています。2層目はアプリケーションを開発するメーカー。3層目はエンドユーザーの生産技術者です。わが社は2番目の層に当たり社内でアプリケーション開発に取り組んでいますが、より広く使えるAIを開発するために、1番目の層にもアプローチしています。斬新な発想が必要なので、わが社の常識にとらわれない社外の企業としてクロスコンパス(東京都中央区、鈴木克信社長)と資本提携し協業しています。
――3番目の層のユーザーの生産技術者の育成も重要です。
エンドユーザーの生産技術者がAIを扱えるようになれば、ロボット市場の裾野は拡大します。初めてロボットを使う生産技術者にとっても使いやすいアプリケーションの開発を目指しています。アプリケーションはどんどん開発されていて面白い状況ですよ。
――アプリケーションはどう開発していますか。
少し前までは、実際にロボットを使って実験し、データを収集してAIに取り込み、学習させるのが当たり前でした。最近では、非常に高い精度で物理現象をシミュレーションする「デジタルツイン」という考え方が出てきました。実際に実験しなくてもよく、この手法が一般的になれば学習のスピードが格段に速くなり、現場に合わせたアプリケーション開発が容易になり、従来よりもワンランク高度なことができるようになる。それを楽しみにしています。