[特集 物流機器は新世代へvol.2]地殻変動が起こりつつある/日本物流システム機器協会 土田剛 会長
ロボット業界の市況とシンクロ
――物流システム機器業界の現状は?
物流関連の業界のため、他の業界に比べれば今回のコロナ禍による景気後退の影響は小さいです。ECを中心に個人宛ての荷送りの需要が増加する流れが加速しました。一般の製造業と比べれば減少は小さく、2020年は前年比で2割減まで行かない程度。肌感覚では1割減といったところ。もちろんJIMH内でも温度差は相当大きいですが、全体で見ればその程度の落ち込みで済んでいます。今回のコロナ禍で良かった点は、EC向けの設備投資が進んだこと。悪かった点は全体景気の後退で設備投資マインドの減速があったこと。というのも物流関連は製造業などでは設備投資の優先順位として高くなく、また他の装置の付帯設備であることも多いからです。
――21年の見通しは?
下期からの投資の回復に期待しています。上期はどの業界も厳しい状況。全体的に大型投資はストップしています。人手不足が短期的に解消されることが、背景としてあるからです。小口のECが増え、物流業界が活況になっても、不景気で余剰となった人手が一時的に物流業界に流れてくるため対応できる可能性はあります。ただ、物流の仕事は楽ではなく、また素人が簡単にすぐこなせる仕事ではありません。JIMHの主流であるマテハン機器の今後の市況は、ロボット業界の市況とシンクロします。ともに自動化に寄与する設備で、ロボットの付帯設備でもあるからです。つまり中期的には確実に需要の伸びが予想されるわけです。国内の産業では機械化や自動化がますます必須になりますから。
ボトルネックは人手
――物流システム機器の近年のトレンドは?
マテハン業界のトレンドは、ロボット活用やモノのインターネット(IoT)対応、そして人工知能(AI)の活用などです。従来はマテハン機器の処理スピードの高速化への関心が高かったですが、高速化の技術は飽和状態に近づいています。もちろん大型の集配センターなどでは大量の荷物を高速で処理することは課題であり続けていて、大型倉庫や仕分け搬送機(ソーター)などへのニーズは要求水準が上がる一方です。
――技術の幅は広がり、要求も高まる。
ただ同時にボトルネック自体に変わりはありません。ボトルネックは人手なのです。物流業界でどんなに機械化や自動化が進んでも、人手でこなさねばならないことがあります。例えばトラックドライバー不足。重労働である荷降ろしをトラックドライバーが担わねばならず、こうした重労働には人が集まりません。ただ、フェーズ(局面)が変わってきた感覚はあります。人手がゼロにはならないとしても、その部分を担える柔軟性が設備機器にますます求められているのです。もう一つ、荷造り・荷詰めのピッキング作業では外国人も含むパート社員が多いのですが、物流は特定技能者に入っていないため、コロナ禍で外国人労働者が少なくなり人手不足は深刻です。
――人手を代替する手段は。
人が動かずに物が動く――それが理想ですが、必要な人手はゼロにはなりません。そうした場面で、ピッキングロボットの需要が高く、さらに異形のダンボールをつかめるような技術へのニーズも高くなっています。ロボットはパレット(荷役台)に自動で荷物を積むことなどに活用されますが、さまざまな形の荷物を混載しなければならない場面は多く、異形物を認識する技術が必要です。搬送ロボットを含めて、需要を背景にさまざまなロボットの開発が進みます。しかし何でもできるロボットはいまだに開発されていない。だからこそ付帯設備を含めたさまざまな設備機器を組み合わせて、より有効な設備投資を提案するべきです。
顧客との「共創」が重要
――JIMHが注力する取り組みは?
協会として、顧客とより近くなっている実感があります。従来は一緒に考えることが少なかった。一緒に考えるために、協会から情報発信するのが大切と考えています。つまり、「共創」が付加価値につながるとの意識が高い。共創は、20年の初め、コロナ禍の前から打ち出しています。その時点ですでに人手不足や省人化は大きな課題でした。人手不足は一時的に減速する可能性があるものの、コロナ禍で世界は大きく変わるでしょう。物流の現場はその典型ですが、人が密に集まって働く現場ではなく、あまり人が集まらなくていい働き方が必要とされます。これは事業継続計画(BCP)の観点でも同じです。そのため、自動化をはじめ人と機器の協調、協働がこれまで以上に注目を集めるのです。
――JIMHとして大所高所から見たときのマテハン機器の今後の課題は?
持続可能な開発目標(SDGs)の観点も課題になり、環境配慮などがマテハン機器にも影響を与えます。マテハン機器は電気を使いますが、省エネ型の需要や、物に無駄な動きをさせないためのプランニングの重要性が高まります。またトラックの待機時間の問題は、ITシステムと連携しなければならないし、さまざまなシステムや機器と協調する必要が出てきます。例えばトラックに荷物を積む作業にも使うフォークリフトは恒常的な運転者不足に悩まされています。それに対しては、自動フォークリフトによる代替に加え、無人搬送車(AGV)との連携なども提案されています。数字には表れづらいのですが、物流の自動化には、生産性向上と環境配慮、コスト低減の「三方よし」がありえるのです。
マテハン業界への注目高まる
――物流システム機器業界の今後の展望は?
業界としてはそう大きな規模感ではありません。その業界がいまや注目を集めるようになっています。またプレーヤーの地図も変わりつつあります。物流そのものを社会課題とする認識が高まり、マテハン機器メーカーだけでなく、IoT機器やセンサー、システムなどをパッケージ化する必要性が高まっているからです。それはつまり、今までにない魅力ある業界になりつつあるということ。これまで登場しなかったような日本の大企業の参入も、すでに始まっています。
――今まさに「熱い」業界ですね。
JIMH会員も増えています。トレンドが「ロボット + AI」とはつまり、イノベーション(技術革新)の芽が多くある業界ということ。単にコストだけが問題なのではなく、イノベーションの面白さなど、働きがいのある業界になりつつあります。ただし既存企業にとっては、脅威も大きい。危機感とチャンスは表裏一体、業界に大変革が訪れつつあるのです。
――3月9日に「国際物流総合展2021」が開幕します。
自動化の必要性を強くアピールします。また、直接でも間接でも環境負荷の低減を同時に問題提起しなければなりません。物流は社会を支える「エッセンシャル」な分野でもあることを訴求したい。またマテハン業界に向けては、これから地殻変動があることを自覚すべきであり、危機感を持つべきと訴えたい。もう一歩先を考えねばならない時なのです。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集部 芳賀 崇)
土田剛(つちだ・つよし)
1984年早稲田大学政治経済学部卒業、石川島播磨重工業(現IHI)入社。調達本部などの勤務を経て、2015年IHI物流産業システム社長、20年からIHIの産業システム・汎用機械領域副領域長。17年より日本物流システム機器協会会長を務める。三重県出身、1961年生まれの60歳。