未自動化領域を開拓、MOTOMAN NEXTが示すロボットの新たな可能性/安川電機 岡久学 上席執行役員ロボット事業部長
AIロボティクスで「未自動化領域」を開拓
――2023年11月に発売されたモートマンネクストは、単なる新製品ではなく「自律ロボット」として発表されました。これまでの産業用ロボットとは何が違うのでしょうか。
モートマンネクストは「ロボットの未利用領域・未自動化領域」を切り開くために開発した製品です。自動車産業など一部の産業では既に多数の産業用ロボットが使われていますが、その他の大半の産業ではロボットがまだあまり使われていません。また自動車産業でさえまだまだ自動化できていない作業が数多くあります。こうした「未自動化領域」の自動化を実現するのが、モートマンネクストです。
――使われる業界や担う作業が従来のロボットとは異なるのですね。
はい。食品製造なども含めたあらゆる製造業に加え、物流、土木、ヘルスケア、農業、小売りなど、1次産業から3次産業までのあらゆる作業が対象になります。「これまで自動化できなかった隙間を埋める製品」ではありません。われわれが想定しきれていない活用領域もあるでしょうから、潜在需要は膨大です。これまで自動化が難しかった領域でロボットの導入が進めば、それだけ人手不足の解消につながります。
――これまで自動化が難しかった「未自動化領域」にアプローチできるようになった背景は?
人工知能(AI)技術の進化や、コンピューター上で高度なシミュレーションができるデジタルツイン技術の発展が挙げられます。モートマンネクストはNVIDIA(エヌビディア)製のGPU(画像処理装置)を搭載しており、AIの演算処理に適しています。AIがあれば、これまでロボット化が難しかった作業にも対応でき、モートマンネクストなら産業用パソコンなどを外付けしなくてもAIとロボットが一体になった「AIロボティクス」を実現できます。細かいティーチングをしなくても、例えば搬送なら起点と終点を指定すればその間の軌道は自動生成してくれます。デジタルツイン環境で動作のシミュレーションなどもでき、その動作を現実世界でそのまま実行する事も可能です。
――動作経路を自動生成してくれるなら、稼働前の設定作業がかなり楽になりますね
はい。ですがそれだけを目的に開発した製品ではなく、「モートマンネクスト=ティーチングレスのロボット」と言うと、大切な要素がいくつも抜け落ちてしまうように思います。同様に、布やケーブルなどの柔軟物を扱うシステムも構築できますが、「柔軟物を扱えるのがモートマンネクスト」というのも一つの側面しか表していません。「ロボット自身が周囲の環境を判断して作業を完遂できる」、これがモートマンネクストの重要なポイントです。センサーで環境を認識し、判断し、動作し、確認する、このプロセスを回すことができるということです。
「現場でその都度判断」が必要
――「判断力を持って作業を完遂」ですか。
例えば、2023年の国際ロボット展(iREX)ではトレーに乗った食器や残飯を片付ける下膳システムを展示しました。これも「未自動化領域」の一つです。食器の位置は定まっておらず、重ねられているものもあるかもしれません。残飯は何がどれだけ残っているか分からず、その他のごみもトレー上にはあるかもしれない。それらを全て認識して分別していく。人間なら皿とコップと残飯と紙くずを見分けて分別するのは簡単ですが、これまでのロボットでは難しかった。モートマンネクストが判断力と作業力を兼ね備えることができるからこそこうした作業も自動化できます。
――なるほど。一般的な産業用ロボットの使い方とは大きく異なりますね。
「未自動化領域」は、常に現場で細かい判断が求められる領域です。以前からロボットが使われてきた製造業の生産ラインでは事前に工程を作り込むことが重要になりますが、未自動化領域の作業は状況がその都度変わるため、事前に作り込むこともできません。判断力を持つロボットが必須となり、判断力を持たない既存のロボットでいくら個別のアプリケーション(活用方法)を開発しても、この領域は開拓できません。作業の前提が根本から異なるのです。