[注目製品PickUp! vol.44]ゴム人工筋肉 で柔軟性と強さを両立/ブリヂストン「ソフトロボットハンド」
力強い指で重い物も把持
見た瞬間に誰もが気付くブリヂストン製ソフトロボットハンドの大きな特徴が、その指の長さだろう。
柔軟性のある素材からなるソフトロボットハンドは、一般的に物を壊さずに優しくつかむのは得意だが、やわらかい分、つかむときに力が逃げてしまう。そのため把持力が弱く、重量のある物には対応しにくい。短い幅広の指で包み込むようにつかむならまだしも、こんなに指が長くては、物をしっかりとつかむのは不可能ではないか――。
その疑問を音山部門長にぶつけると、意外な答えが返ってきた。「ハンドの仕様や対象物の形状にもよるが、しっかり包むようにつかむなら3kgや5kgでも持ち上げられる。指の先端でつまむ場合でも1.5kg程度なら把持できる」と言う。
柔軟性と強さを両立する秘訣は、独自のラバーアクチュエーターだ。ゴムチューブを高強度繊維で覆ったもので、エアを加圧することで屈曲する。このラバーアクチュエーターをそのままロボットハンドの指に使った。
タイヤやホースなどで培ったゴムの技術を応用したもので、「柔軟で対象物の形になじむが、人工筋肉なので力強さも兼ね備える。指先のグリップ力もあり、なんでも『いい感じ』につかめる」と音山部門長は言う。
複数個を一度に
指が長く、柔軟で力も強い。同社のソフトロボットハンドならではの使い方が、複数個の把持だ。シャンプーの詰め替え袋のような袋状の製品なら、長い指で複数個をハンド中央に寄せて、一度に把持できる。右下の動画のように、シャンプー容器のような形状なら、指に引っかけて複数個を運ぶこともできる。
「人とロボットの協働が注目を集めるが、動作があまり速くない協働ロボットで効率よく作業するには、複数個を一度に扱うのが合理的。人の作業が速い理由の一つは、複数個をつかめる場合、複数個を一度につかんで作業するから。人の良い面を参考にした」(音山部門長)
こうした特徴を生かし、物流現場での日用品のピッキング向けなどにこのソフトロボットハンドを提案する。
展示会で確かな手ごたえ
ソフトロボットハンドの開発が始まったのは、2021年。ラバーアクチュエーターを活用する新規事業を検討する中で、やわらかいロボットハンドは注目度は高い一方、柔軟性と力強さの両立が難しいなど、まだまだ多くの課題があると知った。ラバーアクチュエーターを使えば、こうした課題を解決できると判断し、ソフトロボットハンドの開発を決めた。
対外的な初披露となったのが、今年3月に開かれた「2022国際ロボット展(iREX2022)」だ。ロボット用人工知能(AI)のベンチャー企業のアセントロボティクス(東京都渋谷区、久夛良木健最高経営責任者)と共同出展し、同製品をロボットアームの先端に取り付けて展示した。
来場者からの反応はとてもよく、「こんな作業にも使えるのでは」などさまざまな意見をもらったという。また、9月には都内で開かれる「国際物流総合展2022」にも出展し、認知度の向上を図るとともに、今後の実証実験のパートナーを募る。
展示会以外では、今年4月に東京都小平市に開設した施設「ブリヂストン・イノベーションパーク」にも同製品を常設展示する。
今年、ユーザーの現場で実証実験を行い、2024年以降の本格的な事業化を目指す。
「タイヤは、車両と地面が接する唯一の部位。同じくロボットハンドは、ロボットが把持対象物に触れる唯一の部位。ブリヂストンのコアコンピタンス(中核となる強み)を生かし、ソフトロボットハンドやラバーアクチュエーターを通じて産業界の課題解決に寄与したい」と音山部門長は語る。
(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)