KUKAは高品質のメカをニッチな分野にも、IoTにも提案する【前編】/KUKAジャパン星野泰宏社長
人手不足が深刻な日本での取り組み
――では、KUKAジャパンの取り組みを教えてください。
設立は07年です。その頃に日本でKUKAのロボットの輸入が増加。導入後のメンテナンスを強化する狙いもありました。産業別では自動車産業や電気・電子分野の実績が最も多く、現在の日本法人の年間売上高の6割ほどを占めます。ただ、海外のロボットメーカーの中でも後発なので、ニッチな分野にも積極的に取り組んでいます。
――今の日本市場はいかがですか。
近年の人手不足で、幅広い分野で自動化が必要とされています。これまでロボットが普及していない物流、医療分野、エンターテイメントなどにも注力したいと考えます。また従来から導入実績のある、自動車や電気・電子関連でも、応用例の増加で従来よりもロボットの用途が増えました。これまでは、ロボットの稼働を前提に専用の生産ラインを構築してきました。今は人間が作業するラインにロボットを導入して、人の手作業を置き換えるニーズが高まっています。
――これまでにない提案が必要です。
そこで人と共に作業ができる協働ロボット「LBR iiwa(イーバ)」を積極的に提案しています。
――LBRイーバの特徴は。
一つは7軸可動であること。7軸だと腕全体をねじる動きが可能で、狭いところに潜り込むような作業もできます。最初の導入事例は自動車のクラッチギアの組み立てでした。一般的なロボットよりも1軸多いことで回り込む動きができるため、特殊な形状の歯車を複数使うクラッチギアでも組み立てられます。また人との協働作業で、ロボットのアーム部分が人間の作業を妨げる際には、ロボット先端の作業位置を変えずに、ロボットアームの位置だけを変えることもできます。
LBRイーバによる歯車のはめ合い作業
――もう一つは。
7軸全てにトルクセンサーを内蔵している点です。どこに何が触れても力を感知でき、力と速度、位置を同時に制御できます。力を制御しながらの組み立て作業といった、これまで人しかできなかったことも±0.1mmの繰り返し精度でこなします。先述のクラッチギアの組み立てでは、歯車の歯がかみ合う箇所を探りながら、組み立てます。これまで人間しかできませんでしたが、LBRイーヴァは歯車がかみ合う点を自ら探り、かみ合ったらはめ込みます。
――複雑な動きだと、ロボットに動作を教えるティーチング作業が難しいのでは。
LBRイーバはそれほど難しくはありません。トルクセンサーで対象物を感じ、微調整をします。やや乱暴な言い方かもしれませんが、雑なティーチングでも狙った作業ができます。ロボットが関節のトルクを計測し記憶、再現できるため、人間がロボットを直接動かして動作を教える「ダイレクトティーチング」も可能です。
――安全性は。
より確実な安全性を求めて国際標準化機構(ISO)の安全規格に準拠した速度監視や領域監視、全軸に搭載した衝突検知など、さまざまな安全機能を搭載しています。またロボットアーム全体を曲線で構成しました。人間がアームの関節部分の隙間に指を挟んだり、衣服を角に引っ掛けるのを防ぐ目的があります。機種は、可搬質量が7kgのタイプと14kgのタイプの2種類です。
――後編では、LBRイーバの開発秘話や日本市場ならではの難しさ、今後の展望について伺います。
LBRイーバは「協働」の概念が生まれる前から開発していました。そのあたりからお話できればと思います。
(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)
<プロフィール>
星野泰宏(ほしの・やすひろ)
東海大学工学部卒業。1998年シーメンス入社。2007年KUKAの日本法人KUKAロボティクスジャパン(現KUKAジャパン)設立に参画。09年VPテクニカルディレクター。12年代表取締役。1971年東京都生まれの48歳。