生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2023.04.21

連載

[注目製品PickUp! vol.50] 自慢の光学技術で生んだ薄く軽い力覚センサー/キヤノン「FH-300-20」

エンコーダーベースの強みは他にも

力覚センサーにエンコーダーチップを搭載する(提供)

 エンコーダーをベースにした強みは他にもある。
 一般的にひずみ式などでは、ひずみなどのアナログの変位をデジタル信号に変換する。対して、エンコーダーを使うと、変位を直接デジタルデータとして生成できる。
 元々、キヤノンは外乱要因によるノイズに強いエンコーダーを手掛けてきた。デジタルデータを直接生成できる点と元々の強みが相乗し、モーターや移動で生じるノイズに強い力覚センサーとなった。

気駕昇さんは「認識精度と即応性も高い」と訴求

 開発などを担当した気駕昇さんは「力覚センサーはノイズに弱く、1N(ニュートン)以上に分解能を設定している製品もある。新製品は0.1Nの分解能を持つ」とアピールする。分解能とは信号をどれだけ細かく検出できるかを示す能力で、値が小さいほど高精度になる。

 さらに、独自の処理演算の技術を搭載しており、ロボットからの計測指令に対して約0.3秒と即座に応答する。また、光学式エンコーダーは過酷な環境で使われることもあり、その保護技術を応用して新製品も防水性や防じん性を示す保護等級はIP65を誇る。
 すでに成熟した光学式エンコーダーの技術を使ったことで、販売価格も抑えられた。公式にはオープン価格としているが、「想定価格は20万円程度をイメージしてもらえれば」と気駕さんは話す。

ロボットで人をマッサージする

青学大の「ウェルビーイング増幅マッサージシステム」

 同社では、産業用ロボットがよく使われる既存の分野だけでなく、新規分野にも目を向けている。その一つが医療や介護だ。百海専任主任は「協働ロボットを使い、力加減を自在にできるシステムを実現すると、人体に接する作業をロボットにさせるのも夢でなくなる」と希望を持つ。

 実際に使用例も出ている。
 青山学院大学理工学部機械創造工学科の田崎良佑准教授が率いる「知技能ロボティクス研究室」は、3月に開かれた介護福祉の展示会で協働ロボットなどを使った「ウェルビーイング増幅マッサージシステム」を発表した。
 精神的にも、肉体的にも良好な状態「ウェルビーイング」を目指し、不安やストレスを和らげ、体をほぐすマッサージシステムを目指して製作した。天つり式のロボットアームの付け根に2つのカメラを搭載。ベッドの上にいる人の骨格を検出し、各関節の場所から筋肉の位置を推定する。

キヤノンの新製品の、薄く見た目の圧迫感も少ない点を熱弁する田崎良佑准教授

 その情報を基に協働ロボットが動き、マッサージ動作をする。
 同大学には国内で強豪とされるスポーツの部活動が複数ある。マッサージの動きは、その部活動を支える熟練のマッサージ師や整体師の動きを再現した。
 マッサージ師に圧力センサーやモーションセンサーなどを付けて動作を解析し、それをまねてロボットをプログラミングした。単純に筋肉を押すだけでなく、筋肉をもみほぐしたり、表面を摩る動作も実現した。

 そこにキヤノンの力覚センサーを使うことで、適切な力加減にできる。
 田崎准教授は同社の力覚センサーの決め手を「他社製品に比べても、軽くて薄く、安い。協働ロボットに搭載するために軽さは重要。さらにマッサージされる人に恐怖心を抱かせないために、見た目の『機械っぽさ』を低減させたかったので、薄さなどのデザインも大切だった」と話す。

 キヤノンは今回、可搬質量が10kg前後の協働ロボットに付けやすい大きさの製品を発売した。今後は顧客ニーズに応じて、さまざまなサイズへの展開も検討する。

(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)

TOP