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2020.10.15

連載

[注目製品PickUp!vol.29]追従して人間のよきパートナーに【前編】/トヨタL&Fカンパニー「AiRシリーズ」

豊田自動織機の社内カンパニーのトヨタL&Fカンパニーは、モバイルロボット(自律走行ロボット)「AiR(エア)シリーズ」を新たに開発した。「障害物回避」「ヒト追従」「経路の自動生成」「全方向移動」の4つの機能を備え、物流倉庫などで荷物を取り出す作業者の後ろを追いかける。台車を押す必要が無く、モードを切り替えれば自動で指定した場所まで荷物を運べるため、作業者が荷物を運搬する手間を省ける。「人と一緒に働いて愛着を持たれるような、作業者のよきパートナーになれるものとして開発した」と一条恒R&Dセンター長は強調する。

自律化を目指した走行ロボット

 AiRは、ロボット自らが判断して動く「自律化」を目指して開発された。2017年から開発に取り組み、現在は協力会社の物流倉庫で実証試験をクリアした段階だ。
 「障害物回避」「ヒト追従」「経路の自動生成」「全方向移動」の4つの重要機能を搭載する。掃除用の吸引モーターや協働ロボットアームなど、走行する土台部分のベース機に取り付けるオプションを変えれば「搬送・追従ロボット」だけでなく、「清掃ロボット」や「ピッキングロボット」としても活躍できる。

 搬送・追従ロボットの「AiR-T」は、作業者の後ろを走行して荷物の運搬をサポートする。物流倉庫では高齢者や女性が荷物を運ぶことも多い。同機を使えば、重い台車を押しながら倉庫内を移動しなくてもよく、両手も空く。指定した場所に自動で移動するモードもあり、出荷場所を覚えさせれば、そこまで作業者が荷物を運ぶ手間を削減できる。

自分で経路を考える

トラスコ中山の物流倉庫でのAiR実証実験

 磁気テープを使用せず、2次元の地図情報から自らの位置を推計して自律的に動くSLAM(スラム)誘導式を採用。ベース機の前後に光学式レーダー「レーザースキャナー」が付いており、障害物を検知すると独自のシステムで避けて通るルートを選択する。障害物が完全に道をふさいで通れない場合は、全体の地図データから目的地までたどり着ける最適なルートを再度割り出すという。

 ベース機は、棚と棚の間隔が狭い倉庫でもスムーズに移動できるよう、直径640mmとコンパクトサイズ。人に安心感を与え、人の後ろを自由に付いて動ける全方向移動の動きを生かすために円筒タイプとし、「親しみやすさ」と「作業機としての頼もしさ」を両立したデザインを採用した。

360度自由に動く

「人の後ろを自由に付いて動けるようにデザインした」と一条恒R&Dセンター長

 人間の不規則な動きにも柔軟に対応できる理由は、全方向に進める「オムニホイール」を取り付けたから。オムニホイールは全方向に進める反面、進行方向に応じて細やかな回転数の制御が必要だ。そのため開発時には、指示通り動かすための制御部分に一番苦労したという。

 市販のオムニホイールを試したこともあるが、コストや走行音、高荷重への耐久性の面で採用を断念。重量物を積んでも耐えられるよう強度を高め、走行時の音を抑制できる構造を取り入れた独自品を開発した。「開発当初は走行中に80デシベルほどの音を出した。実証実験では作業者が気にならないレベルにまでの静音化に成功した」と一条恒R&Dセンター長。

 これまでフォークリフトなどの大型荷物を運ぶ設備を主に製造してきた同社が、なぜ小型、少量の荷物を搬送するAiRを開発したのか。そこには物流ニーズの変化があるという。

――後編へ続く


(ロボットダイジェスト編集部 渡部隆寛)




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