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2019.02.14

インタビュー

[特集SIerになろうvol.2]現場を何も変えない「ヒト」として/星野京延THKインテックス副会長

THKインテックス(東京都港区、寺町崇史社長)はTHKのグループ企業で、FAメーカーからロボットシステムインテグレーター(SIer)に参入した先駆けだ。参入の理由は、新市場の開拓。人に代わるヒト型ロボットを生産システムに組み入れる時には「製造現場を何も変えることなく導入できる。人と同じように、人事部に採用してほしい」と星野京延副会長は話す。重要なのは人とロボットの「親和性」という。

ネクステージに特化したSIer

THKインテックスの星野京延副会長

――THKインテックスの事業内容は。
 THKのグループ企業で、精密機器や光学機器のBeldex(ベルデックス)と靴下編み機の大東製機の2社が合併して2009年に生まれました。精密機器や繊維機械、設備関連、材料、ユニットとロボット関連を合わせた6つの事業を展開しています。ロボット関連事業は川田工業ロボティクス事業部(現カワダロボティクス)製の双腕型産業用ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」を販売支援する立場で、ロボットエンジニアリングを手掛けます。

――ネクステージの特徴は。
 2000年ごろに川田工業が二足歩行をするヒューマノイドロボットを開発しており、それをきっかけに開発されたのが、「人型産業用ロボット」ネクステージの始まりです。2000年代前半のロボットブームでは「人との共存」のテーマがフォーカスされ、人間の活動空間にロボが入ってくることを予感させました。当時はまだ「協働型」との定義もなく、産業用ロボはすでに数多く使われていても、協働型ロボはない。そんな中、川田工業は人に近いヒト型ロボットを作ろうとしていました。現代を先取りしたコンセプトです。

――なぜネクステージに特化することに?
 橋などの鋼構造物をメインとする川田工業とはかねてより付き合いがあり、ネクステージの開発段階からTHKとして関わりを持つことになりました。THKは部品メーカーで、新市場の開拓は常に課題です。将来の新たな部品市場として次世代ロボをとらえており、そこにチャンスが広がると考えました。部品メーカーに求められる技術開発に向き合ってきました。THKとしては、新市場を創造するか、産業を支援して協働型ロボの開発にコミットしておかねばならないと考えました。

何も変えない、何も足さない

カワダロボティクスの人型産業用ロボット「NEXTAGE」

――開発にどう関わったのか。
 THKのある大手の顧客が、国内で組み立ての生産ラインを立ち上げたいが人が集まらず、人の代替となるような自動化装置を探していた。その相談を川田工業に持ち掛けると、当時開発していたヒューマノイドロボを上半身だけのものにしようとなりました。ここからの発想力は見事で、産業用ロボ専業メーカーとは全く違うものでした。いかに「人に近いか」を常に追求し、まさに「人に近いヒト」を作ろうとしていたのです。これがネクステージの強い武器です。05、06年にネクステージの初号機ができましたが、その実証実験はTHKの三重工場に持ち込んで行いました。

――ネクステージは09年に発売されました。
 川田工業は建設系の企業で、FA業界には知見がありません。そのため、THKインテックスが販売代理店として支援することに。そしてネクステージの普及に努めるのですが、THKとしての目的は部品やモジュールの需要であり、ある程度長い目で見た取り組みでした。THKが「世にまだない物を」との企業文化が強いためにできたことです。

――ネクステージのSIerとしての活動を本格化します。
 ネクステージのコンセプトは「人に代わるヒト」。人に近いヒトを人の代替とし、人不足の解決や変種変量生産への対応に貢献すべく活動しています。顧客産業は皆コスト要求が厳しい。理想はマルチな人を使いたいために、まずセル生産が生まれました。それでも人は不足する。生産ラインで必要な人数の半分しか集まらない場合、例えば5人不足していればネクステージ5体の導入を提案する。既存の現場にそのままロボを持ち込めるのがネクステージなのです。われわれはSIerではなく、使用可能な状態にするシステムのインストーラーと考えています。重要なのは、従来の現場とは何も変えない、何も足さないということです。

重要な「機能」が親和性

昨年12月に東京メトロ大江戸線で実証実験をした案内ロボット「ARISA」

――通常のSIerとは違いますね。
 極論を言うと、人の採用と同じように、人事部や人材派遣会社に購入してもらいたいと思っているのです。製造現場の設備としてではなく、人材確保の一貫として導入を検討してもらいたい。つまり、ネクステージを使う側がコンセプトを理解するかどうかが問題なのです。まるで新入社員を受け入れるようにネクステージを導入してほしい。その意味で、われわれの一番大きな仕事は、コンセプトを理解してもらうための啓蒙(けいもう)活動。そもそもセル生産内の「人」と同じ物を求められたのがスタートでしたから。われわれは人からヒトへの置き換えをやり続けてきました。文化を植え付けてきたのです。

――産ロボであって産ロボでない?
 ネクステージの動きはゆっくりで、力も弱い。人で言えば6割程度の働きです。だから、ロボの手助けを人がする場面などもありえるでしょう。産ロボの固定概念を覆すことも大きな任務です。ネクステージを人の世界になじませていく。そのための重要な「機能」が親和性だと思います。

――今後の課題は。
 1つしかありません。ネクステージがとにかくより人に近づくことです。ロボット本体の機能向上も重要ですが、最も大事なのは、受け入れる側に、文化をいかに醸成するかです。それがマーケットの開拓でもある。ネクステージのポテンシャルは無限大と言えます。産ロボであって産ロボでないために、産ロボとは違うフィールドも視野に入るのです。「人に代わるヒト」のコンセプトで、人の活動空間に入っていける。一例ですが、アミューズメント製品を手掛けるアルゼゲーミングテクノロジーズに提供した人型きょう体(ロボット部のみ)が会話機能などを付加され、東京都の取り組みに採択されたのもロボットの可能性を探る同じコンセプトです。これはネクステージではなく「ARISA(アリサ)」という案内ロボットで、昨年12月に東京メトロ大江戸線の上野御徒町駅で実証実験をしました。人が話しかけやすいヒトとは、人に近くなければならないとのコンセプトです。ネクステージと共通するのは、親和性です。これこそが今後の社会実装に不可欠な機能だと考えています。

(聞き手 ロボットダイジェスト編集部 芳賀崇)



星野京延(ほしの・たかのぶ)
2009年THK IMT事業部長兼THKインテックス副会長に就任。14年THK常務執行役員兼THKインテックス副会長。1960年生まれの58歳。

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