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2022.03.17

ロボットで野菜の収穫作業を自動化!/AGRIST 高辻克海CVO インタビュー

製造業や物流業だけでなく、農業でも人手不足は深刻だ。ロボットの導入による自動化、省人化のニーズが高まっている。しかし、農場は工場などと比べると環境をコントロールしにくく、農作業をロボットで自動化するには独特の技術やノウハウが必要になる。農業ロボットを開発するベンチャー企業AGRIST(アグリスト、宮崎県新富町、斎藤一社長)の最高事業計画責任者(CVO)である高辻克海執行役員に話を聞いた。

先進的な農家の要望に応え創業

ウェブインタビューに応じる高辻CVO

――まずは御社の概要を教えてください。
 農業が盛んな宮崎県の新富町に本社を置き、野菜を自動で収穫するロボットを開発しています。新富町では2017年から「儲かる農業研究会」という勉強会が定期的に開催されていました。ロボットや人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)などの先端技術を活用したスマート農業を推進するための地域農家の集まりです。研究会では当初はIoT技術を活用し、収穫量の向上などを図っていました。そして次に取り組むテーマとして定めたのが「担い手不足の解消」です。そのためにはロボットが必要との声が上がり、その声に応えて19年にアグリストは創設されました。

――地域農家の声から発足したのですね。
 アグリスト創業者の斎藤潤一社長は、地域農家と一緒に儲かる農業研究会を開いてきたこゆ地域づくり推進機構(こゆ財団、宮崎県新富町)の代表理事でもあります。こゆ財団は、新富町が旧観光協会を法人化して設立した地域商社です。ロボットを開発するため、斎藤がロボット研究が盛んな教育機関の先生などに声をかけ、当時北九州工業高等専門学校の学生だった私もアグリストに参画することになりました。

アグリストが開発したピーマン収穫ロボットL

――そして開発したのが、ピーマンを収穫するロボット「L」ですね。
 そうです。ピーマンの実に対してアームを伸ばし、茎を切って収穫するロボットです。収穫した実は本体内に格納します。つり下げ式で、ハウス内に張られたワイヤーに沿って移動します。

――なぜつり下げ式に?
 ピーマンのハウスは地面が凸凹(でこぼこ)で、走行式では使いにくいためです。つり下げ式なら、地面の凹凸の影響を受けません。

本体からアームを伸ばして作業する

――つり下げ式で、どこにも固定されていないのなら不安定では? 例えばアームを動かした際に、本体の方が動いてしまったり……
 アームは軽量で振り回すわけでもないので、問題ありません。また、本体が揺れるなどして、まれに作業に失敗することもありますが、それはそれで構わないと考えています。ピーマンの一つ一つは高価ではありません。ロボット導入で利益を得るには、ロボットの価格が安いことが絶対条件です。揺れを補正する機構などを組み込めば、まれに起こる失敗は防げますが、それにより価格が上がってしまっては本末転倒です。オーバースペックにせず、農家が導入できる価格帯に抑える、それがLの最も重要なコンセプトの一つです。

――「L」という名称の由来は?
 ピーマンには「M・L 」とサイズがあります。Lサイズを狙って収穫できるので、Lと名付けました。ピーマンは実が大きくなってからも収穫しないでおくと、株全体が弱ってしまいます。Lサイズにまで育ったピーマンは、その一歩手前です。株を良い状態で保つためには、Lサイズのピーマンがあれば優先的に収穫しておく。これが、株全体を良い状態に保つことにつながります。大きさを正確に認識できるのは、ロボットシステムの良いところですね。

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