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2022.09.07

工学から総合的な「ロボット学」に、創立40周年記念イベントを開催/日本ロボット学会

日本ロボット学会(会長・村上弘記IHI技術開発本部技監・理事)は9月5日~9日、都内の東京大学本郷キャンパスで「第40回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2022)」を開催している。9月5日には同学会の創立40周年を記念し、記念式典を開催。シンポジウムでは「2050年に向けて日本ロボット学会の進むべき道」をテーマにパネラーがディスカッションし、来場者も交えて活発に意見交換した。

ロボット学会の進むべき道をディスカッション

イベント冒頭であいさつする村上弘記会長

 第一部ではまず、村上弘記会長が登壇。「新型コロナウイルス禍の影響もあって非接触を実現するサービスロボットの社会実装も現実味を帯びてきた。工学系のアプローチだけでなく、当学会が社会科学系の研究者とも議論を深め、人とロボットの関係がどうあるべきかを議論する場になれば」とあいさつした。
 その他、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の奈須野太統括官や、日本学術会議の梶田隆章会長、計測自動制御学会の藤田政之前会長、日本ロボット工業会の山口賢治会長が来賓として祝辞を述べた。

大学の研究者3人がパネルストとして登壇

 第二部では、大学や企業に所属する研究者・技術者の6人がパネリストとして登壇し、「2050年に向けて日本ロボット学会の進むべき道」をテーマにシンポジウムを開催した。
 早稲田大学の菅野重樹教授は「異分野や学際的な領域が必要。今、ロボットの研究はロボット工学がメインだが、工学的に技術が優れるだけでは必ずしも社会に良いものとは言えない。特に人と関わる分野でロボットが受け入れられるには、工学だけでは不十分。工学以外のアプローチをどうできるか、社会科学も含めた他の学会に声をかけ、いかに連携できるかが重要」と持論を述べた。

 続いて東北大学の平田泰久教授は、「科学技術が社会で実用化される際に生じる倫理的・法的・社会的課題はELSI(エルシー)と呼ばれる。ムーンショット(壮大な目標)研究として、2050年までに人と共生する人工知能ロボットの実現を目指しているが、例えば『インフォームド・コンセント(説明と同意)はどうするのか』など、工学とは異なる視点の課題や議論が出てくる」と指摘した。

 柔軟性のあるソフトロボットの研究に力を入れる東京工業大学の鈴森康一教授は、「ロボットを研究する意義は、『人に役立つ道具を作る』ことと『生き物や人間への理解を深めること』の二つ。増殖や変異、進化なども視野に入ってくる話で、その意味では今後は生物学や分子レベルの材料学の技術も重要になる」と語った。

産業界側からも3人が登壇

 産業界から登壇したパナソニックホールディングスのマニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室の安藤健室長は「増殖や変異、進化と言うと突飛に聞こえるが、企業のビジネスモデルを根底から変化させる可能性がある。販売した後に商品が勝手に進化することを想定している企業はない。企業側が何を準備しておくべきなのか、産学連携でフラットに議論できる場として、ロボット学会には大きな意味がある」と話した。

 建設業界からは、清水建設のロボット・ICT開発センター長の印藤正裕専務執行役員が登壇。建設現場向けのロボットについて「現場の負荷軽減のために開発したロボットなのに、現場に持っていくとあまり歓迎されない。機能や性能に問題があるわけではなく、仲間として認めない。心理学の知見なども生かして『ロボットは人の味方』と認識してもらうことが重要だ」と述べた。

 ファナックのロボット事業本部、ロボット機構開発研究所の森岡昌宏協働ロボット開発部長は、ロボットメーカーの立場から「『人がいなくなる』という社会的な問題が迫ってきている。世界で稼働するロボット約300万台のうち3分の1は中国で、中国でさえ人手が集まらない。ロボットがないと困る社会が来る。誰でも簡単に使え、思った通りに作業してくれる。この理想とのギャップをなくすことで、現場がロボットを受け入れやすくなるのではないか」と述べた。

 登壇者以外からも活発な発言があり、同学会前会長の浅田稔大阪大学特任教授は「他の学問とどうつながるか。ムーンショット研究で巨大なアドバルーンを掲げた結果、分野を超えてさまざまな研究者が集っていた、これが正しい形。目の前の技術的な課題解決だけでなく社会へのインパクトを意識し、研究者だけでなく一般の方も引き付け、子どもの夢を引き出すような研究をしてほしい」との意見を述べた。

(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)


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