フォーミュラEで環境性の高いロボット塗装技術もアピール/ABB中島秀一郎社長
フォーミュラEの冠スポンサー
――ABBは、フォーミュラEの公式充電パートナーでもあります。
ABBはEVの充電インフラ事業も手掛けており、その技術を応用してレースカーのバッテリー用充電器を全チームに提供しています。160kWの容量を備えており、レース前に80kWの出力で2台同時に充電できます。その他、停電時にも切れ目なく電力供給を保証する無停電電源装置(UPS)や、イベント全体の電力消費を監視・分析するソリューションなども提供しています。
――期間中は東京ビッグサイトにフォーミュラEのファンが誰でも無料で入れるファンビレッジも開設されました。
フォーミュラEは社会への波及性を考え、専用のレース場ではなく、街中で開催されることが特徴の一つです。今回は東京ビッグサイトの周辺がレース会場となりました。東京ビッグサイトのホールがフォーミュラEのファンのためのファンビレッジになり、ABBもブースを構えました。
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――ファンビレッジのブースで展示したものは?
EVの実機を持ち込み、EV用の急速充電器とロボットシステムの「PixelPaint(ピクセルペイント)」を展示しました。ピクセルペイントは産業用ロボットのアーム先端にインクジェットヘッドを搭載したシステムです。自動車をツートンカラーにしたり複雑な模様を描くなど、装飾塗装が可能です。
――急速充電器はフォーミュラEにも関係が深いですが、ピクセルペイントを展示した意図は?
フォーミュラEの理念である環境負荷の低減につながるからです。塗装は自動車の車体の製造で二酸化炭素排出が最も多い工程です。塗装工程だけで、車両工場全体の約3割の二酸化炭素を排出すると言われます。それだけに、この工程で環境負荷を低減することは大きな意味を持っています。充電機器と併せてピクセルペイントに代表されるサステナブル(持続可能)な塗装技術もアピールし、普及拡大につなげたいです。
――なぜピクセルペイントなら環境負荷を抑えられる?
エアで塗料を吹きつけるエアスプレーガンでは、塗着効率は30%~50%程度と言われています。高い塗装品質を確保する場合は20%~40%とさらに低下し、塗料の半分以上は無駄になってしまいます。静電塗装と呼ばれる方式なら塗着効率は高められますが、それでも塗料の何割かは無駄になります。一方、ピクセルペイントなら吹きつけるのではなく印刷するように塗装するため、塗着効率は100%です。塗料の無駄が減れば、コストの低減になるだけでなく、塗料に関連するあらゆる環境負荷を低減できます。日本発の画期的な塗装技術です。
――ABBはスイスに本拠地を置く企業なのに日本発?
ABBは静岡県島田市に「ABBロボティクステクニカルセンター」を構えています。ここは日本だけでなく、ロボット塗装技術を研究開発して世界全体に発信する拠点です。インドやノルウェーのチームとも連携しながら、静岡県で開発しました。
――開発時の苦労は?
ロボットとインクジェットヘッドを高度に同期させる必要があり、そこが大変でした。塗料の吐出にはピエゾ素子と呼ばれるデバイスを使うのですが、この素子の動きをロボットの動作とミリ秒(1/1000秒)単位で同期させなければなりません。これを実現するにはロボットの制御などを改良する必要がありました。これまで以上にロボットの振動抑制なども必要でした。塗装の隙間ができてしまったり、一部だけ重ね塗りされて厚みが変わってもいけませんので、塗膜が切り替わる箇所向けに特殊な制御も開発しています。苦労は多かったですが、その甲斐あってABB以外では開発できないシステムを実現できたと思います。
――ピクセルペイントの引き合いはどうですか。
昨年から受注を開始したばかりの新しい製品ですが、多くの引き合いを頂いており、受注が決まった案件もあります。顧客の工場への納入も今年中に始まる予定です。