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2024.05.31

[エディターズノートvol.3]“失われた30年”を抜けて

社会は変わり始めた

「失われた30年」、この言葉はバブル経済の崩壊以降ずっと低成長が続いた日本の経済や社会を表す言葉だ。
 2000年代前半には「失われた10年」と言われていたが、その後も状況は変わらず2010年代前半には「失われた20年」、そして近年は「失われた30年」と言われるようになった。

 こうした状況がいま変わり始めている。日経平均株価は1989年に記録した最高値を、今年2月に更新した。最高値の更新は実に34年2カ月ぶりだ。
 ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーコストの上昇などポジティブな理由ではないが、物価も上昇し長年のデフレを脱却した。
 あとは賃金が上昇すれば経済成長の好循環が生まれるが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、物価変動を加味した実質賃金指数は2022年では前年比マイナス1.0%、23年はマイナス2.5%となった。賃金の上昇が物価の高騰に追いつかず、庶民は厳しい生活が続くが、日本の社会構造が変化し始めているのは間違いない。

ロボット産業の30年

受注額・生産額はともに減少傾向

 4月末には、日本ロボット工業会が24年1月~3月の受注額(会員のみ)を発表した(その記事はこちらから)。受注額は22年から下り坂が続く。
 また、5月には3月決算の企業が昨年度の業績を発表した。売上高は受注残にも左右されるが、受注額を見ると大きく減少した企業は多い。長期的には間違いなく伸びると言われるロボット産業だが、直近は少し停滞、あるいは低迷気味だ。

30年前は、2000年時点で産業規模が1兆5000億円になると予測されていた

 長期的なスパンで見ても、ロボット産業もまた「失われた30年」だったと言える。
 右の図は、ちょうど30年前の1994年に小社が作成した「FAツリー」の画像だ。小社が発行するFA(ファクトリーオートメーション=工場自動化)専門誌「月刊生産財マーケティング」に当時掲載したもので、FAに関連する業界を図にまとめて総額を算出している。30年前に印刷した雑誌をスキャンしたものなので、紙が酸化して変色していることはご容赦いただきたい。

 このFAツリーを見ると、2000年のロボットの予測値は1兆5000億円となっている。
 当時の生産額の最高値は、1991年の約6000億円。93年はバブル崩壊の影響で落ち込んだものの、すぐに回復してその後は急成長が続くとの未来を想像していた。
 なお、この数値は小社が単独で予測したものではなく、日本産業用ロボット工業会(現在の日本ロボット工業会)の長期予測を参考にしたものだ。

目指せ1兆5000億円!

受注額・生産額に波はあるが右肩上がり

 93年時点で予測した1兆5000億円に対し、実際はどうだったか。
 日本ロボット工業会の統計によれば、90年代の生産額は4000億円台が多く、91年の最高額を更新できなかった。2000年は6475億円となったが、その後は4000億円~6000億円台となった。リーマンショック前の06年~07年には一時的に7000億円台となったが、その後は再び5000億円~6000億円台が続いた。
 増加傾向ではあるが、1993年に思い描いた急成長には程遠かった。

 状況が変わり始めたのが2017年だ。この年初めて生産額が8000億円を突破した。ここで産業規模が一回り大きくなったが、その直後さらにもう一段階成長することになる。21年には9000億円台を超え、22年には初めて1兆円を突破した。
 長期的に見れば、ここ数年で低成長の時代が終わり、日本経済全体よりも一足先に成長軌道に乗ったことが分かる。

 人工知能(AI)などの技術は日進月歩で進化し、食品産業や中小企業などロボットを使うユーザーの裾野も急速に広がっている。
 また人件費が上がればそれだけロボットの投資回収が容易になる。昨今の人件費上昇はロボット普及の強烈な追い風になり得る。

 非会員も含めた23年の受注額や生産額は今日発表される予定で、23年は大幅に落ち込む見通しだが、受注の増減が激しいのは設備産業の宿命だ。この受注の谷間を超えた次の好況期には、さまざまな追い風を受けて産業規模がさらに大きくなるだろう。あの日思い描いた1兆5000億円に手が届く日もそう遠くない。

(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)



※「エディターズノート」はロボットダイジェストの編集後記として毎月の最終平日に掲載しています。

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