生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2024.02.26

連載

[気鋭のロボット研究者vol.32]AMから切削、そして――【後編】/山形大学 多田隈理一郎 教授

多田隈理一郎教授が研究に取り組む「球状歯車」は、独自の構造でX、Y、Zの3方向に無制限に回転できる。後編では、これまでの研究の経緯や今後の展望に迫る。球状歯車の製造は3Dプリンターを使った付加製造(AM)から始まり、工作機械の5軸マシニングセンタ(MC)の切削加工を経て、次はプレス加工で量産を狙う。

ロボットアームの関節などに搭載

ロボットアームの関節部分に球状歯車を採用し、自由な動きを実現した

 球状歯車は小型で全方向に駆動するため、ロボットアームの関節部分に採用すると、より自由な動きを実現できる。この独自の構造は、当時山形大学の工学部4年生だった阿部一樹・東北大学特任助教の提案した機構が基となっている。

 ボールのような形状が特徴的な球状歯車だが、初めから球状だったわけではない。多田隈教授が研究を始めた時は、まず平面の歯車で全方向への駆動を実現した。上向きの歯がある板状の歯車で、XとYの2方向に動く平歯車とかみ合うことで自由に駆動する。平面の次は、曲面で2方向の歯車とかみ合う円筒形状の歯車も開発した。

量産に向けて

多田隈理一郎教授は「製造方法や部品などを工夫し量産を狙いたい」と語る

 平面や円筒形状の歯車からさらに研究を重ね、4年前に球状歯車を完成させた。当初は3Dプリンターで樹脂を積層造形して作った。産業用に球状歯車の活用シーンを広げるには耐久性の向上が必要で、5軸MCを使いアルミ合金の切削加工を始めた。

 それまでと異なる素材や加工方法にしたことで、新たな課題が出てきた。多田隈教授は「金属製にすると、樹脂製より大きな反力がかかる。摩擦や振動など、形にしてみて初めて分かることも多い」と話す。だが技術的に大きな障壁はなく、解決のめどは立っているという。

 今後はプレス加工で球状歯車の量産を狙う。「さまざまな用途で使えるように、量産体制を確立したい。また球状歯車のコアになる部分は独自の構造だが、その他の部品はできるだけ市販の部品でまかなえるようにもできれば」と意気込む。

――終わり

(ロボットダイジェスト編集部 水野敦志)



多田隈理一郎(ただくま・りいちろう)
2005年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了、博士(工学)。同年、科学技術振興機構研究員。06年4月~08年10月まで日本学術振興会特別研究員(PD)。この間、約1年半は米ハーバード大学客員研究員。08年東京大学大学院情報学環・学際情報学府特任講師。09年フランス国立科学研究センター博士研究員。10年山形大学大学院理工学研究科テニュアトラック助教、13年から同大学院准教授、23年から現職。学生時代にバスケットボール部で培った体力と精神力を、研究と教育に最大限生かすべく日々奮闘する。熊本県出身の47歳。

関連記事:[気鋭のロボット研究者vol.32]球状の歯車が無制限に回転【前編】/山形大学 多田隈理一郎 教授

関連記事:[気鋭のロボット研究者vol.31]「進化計算」を画像処理に【前編】/岐阜大学 佐藤惇哉 助教
関連記事:[気鋭のロボット研究者vol.30]位置検出に「光と影」を【前編】/産総研 栗田恒雄 研究グループ長
関連記事:[気鋭のロボット研究者vol.29]突発的な接触を柔軟に「いなす」【前編】/広島大学 村松久圭助教

TOP