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2024.05.10

インタビュー

省エネ意欲の高まり契機に、提案先も組織も変えねば/SMC 高田芳樹社長

2つの側面で高まる省エネ意識

――ユーザーの省エネ意識はいかがですか。
 国内外を問わず、主に2つの側面から意識や関心が高まっています。1つは社会的な環境意識の高まりです。欧州を中心に年次を区切り、二酸化炭素(CO₂)の排出を制限する目標を立てています。もう1つは、エネルギー価格の高騰で電気代の値上がりが世界中で起きていることです。電気代を下げるために省エネに取り組むというエンドユーザーのニーズもあります。

――なるほど。
 空圧は古くからある難しくない技術ということもあり、その見直しが環境対策や省エネにつながるのは意外と盲点のようです。わが社は長年の経験と製品ラインアップから、「空圧機器のワンストップショップ」と自負しています。具体的な解決策も豊富です。ただし、営業や販売のアプローチは変えなければなりません。

――その理由とは。
 従来、工場建屋や設備メーカーへの提案が中心で、エンドユーザーにはアプローチできていませんでした。設備メーカーは機器や部品の安さを重視しがちですが、設備導入時のコストだけでなく、使用中のランニングコストまで含めたトータルで考えるべきです。設備を使うエンドユーザー側では、その認識に変わってきています。だからこそ、エンドユーザーに提案したいのです。

――結局、使うのはエンドユーザーです。
 私は環境や省エネに対応した製品をあまり安売りすべきではないと考えています。それだけ付加価値があるとの自信もありますし、エンドユーザーに納得して導入いただくことで、さらに一歩踏み込んだ環境対策を考えるきっかけにもなるでしょう。電気代が高騰する今では、使用環境にもよりますが、導入時のコスト増加分を1年ほどで回収でき、そこから先は使うほどにメリットが出るケースも少なくありません。今こそ、エンドユーザーに価格を納得してもらえるアプローチに変える好機と捉えます。そのためには、営業社員や代理店の認識や意識を変え、提案方法も見直さなければなりません。その変革に挑戦します。

拠点間の連携を密に

――他に取り組みたい変革はありますか。
 わが社はグローバルに多くの拠点を持ちます。そのつながりを強めたいと考えています。製造業向けだけでは、景気の動向や設備投資の意欲に経営状況が左右されます。そこで、仕向け先の多角化を思い切って進めます。そのために、情報共有は大事です。とある拠点で新たな分野を開拓できても、その情報が共有されていませんでした。例えば、欧州ではサッカーのビッグクラブの本拠地で、空圧機器が芝生の育成に使われていたそうです。

――それは興味深いです。
 しかし、それをわが社の他の拠点は知らない。芝生の育成に使えるのであれば、世界中のサッカー場に提案できます。また、乳牛の搾乳など農業分野の自動化もまだまだ可能性があります。空圧は、われわれの思いつかない場所や用途でも使われます。幅広い分野に製品一つから提案でき、新規開拓につながるポテンシャルがあるのが、部品メーカーの強みです。だからこそ、各拠点の提案内容を共有して、参考事例を増やしたいと考えています。

――研究開発ではいかがでしょう。
 開発もグローバルでの共有を進めたいです。クラウドサービスを経由して開発情報を途切れずに引き継げると、理論上は24時間開発に取り組めます。そうして、開発スピードを上げる狙いです。各国の優秀な人材の能力を生かす狙いもあります。25年には千葉県柏市に研究開発拠点を新設します。最新の研究開発設備を備え、世界各国にある技術センターの中核を担います。

――品目は標準品で70万点を超えます。生産管理や在庫管理も大変そうです。
 在庫戦略も変えます。これまでは完成品の在庫が多かったのですが、仕掛品で在庫する形にします。ある程度まで加工した基本形で在庫して、営業からの受注予測データを基に、最終仕上げをして完成品にするイメージです。そのためには予測データの確度も上げていかなければならなりません。近いうちに開始する予定です。わが社自体が生産効率を上げ、省エネやCO₂の削減に取り組まないと、顧客に選ばれる製品にはなりませんから。

(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角 秀)

たかだ・よしき
1982年上智大学法学部卒業。同年三菱商事入社。87年SMC入社。88年ロンドン大学政治経済大学院財政学ディプロマコース修了。94年SMC取締役、2002年常務取締役、04年SMC米国社長、17年SMC取締役常務執行役員、18年取締役専務執行役員、19年副社長などを経て21年から現職。1958年東京都出身の65歳。

※この記事は「月刊生産財マーケティング」2024年5月号に掲載した内容に加筆し、再編集したものです。

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