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2024.06.24

[直前特集RTJ2024 vol.3]「未自動化領域」にアプローチ/デンソーウェーブ 神谷孝二 執行役員 FAプロダクト事業部長

40小間の規模でロボットテクノロジージャパン(RTJ)2024に臨むデンソーウェーブ(愛知県阿久比町、相良隆義社長、C-01)。同社は「未自動化領域」の自動化に貢献する人工知能(AI)技術や協働ロボットのアプリケーション(応用事例)開発などに注力しており、RTJ2024でも未自動化領域にアプローチするさまざまなソリューションを展示する予定だ。FAプロダクト事業部長の神谷孝二執行役員は「お客さまに自動化のメリットを具体的にイメージしていただけるよう、会場では実用的なソリューションを提案したい」と述べる。

難作業の自動化にAIを活用

デンソーウェーブの神谷孝二執行役員(写真は提供)

――足元の市況はいかがですか。
 日本では自動車業界向けが比較的堅調ですが、半導体や電子部品関連の設備投資需要は一服感が見られます。中国市場では、3C(コンピューター、通信機器、家電製品)業界向けの大口案件が決まりにくくなっています。一方、欧州では医薬・医療関連や農業といった景気変動に左右されにくい業界をターゲットにビジネスを展開しているため、需要が比較的安定しています。

――御社のロボット事業の戦略を教えてください。
 産業界には自動化がまだまだ進んでいない「未自動化領域」が数多く残されています。この領域の自動化に貢献する商品や技術、ソリューションを開発し、手厚いサービスとセットで提供したいと考えています。

――未自動化領域とは?
 製造現場一つ取っても、ロボット化されていない難作業はたくさんあります。例えば、ワイヤハーネスなどの柔軟物のハンドリングや組み付けは自動化が難しく、手作業が主流です。また、微妙な力加減が求められる高精度な組み立ても、ロボットが適用しにくい難作業です。ばらばらに積まれた部品のピッキングや人の五感を使った官能検査も、ロボットに置き換えにくいですね。

――これらの難作業にどうアプローチしますか。
 難作業の多くは人の感覚に依存しており、定量化してロボットプログラムに落とし込むことができません。そのため、難作業の自動化にはAIの活用が欠かせないと考えています。最近はその一環で、力覚センサーやビジョンセンサーといった複数のセンシング情報を取り込んで高度な判断を下す「マルチモーダルAI」などの技術開発に力を入れています。

デンソーウェーブが展開するロボット製品群(提供)

――未自動化領域は他にもありますか。
 量産ラインにはロボットを導入しやすいですが、量産のイメージが強かった自動車業界でも近年は生産形態が変種変量生産にシフトしつつあります。変種変量生産の自動化を実現するには、生産量の変動に合わせて柔軟に工程を組み替える必要があります。その時に安全柵があると工程の組み替えに手間がかかりますから、わが社は協働ロボット「COBOTTA PRO(コボッタプロ)」の活用を提案しています。

――コボッタプロの特徴は?
 高速性が大きな強みです。協働ロボットは動作スピードが遅いと思われがちですが、それだと生産量の増加に追従できません。こうした課題を踏まえ、安全性をしっかりと確保した上で高速作業ができる協働ロボットとしてコボッタプロを開発しました。また、プログラミングやティーチング(動作を覚えさせること)も簡単で、段取り替えがしやすい点でも優位性があります。

――御社は協働ロボットだけではなく、システムソリューションにも注力しています。
 中小企業は大企業と比べてロボット化がまだ進んでおらず、そこも未自動化領域だといえるでしょう。中小企業にロボットが普及しないのは費用対効果の問題に加え、ロボットを扱うエンジニアが不足しているのも要因の一つです。そのため、最近はロボット単体を販売するのではなく、標準的な作業を自動化するのに必要な要素技術をまとめた「標準パッケージ」の提案に力を入れています。リスクアセスメント(リスクの分析や対処)やモノのインターネット(IoT)技術などの各種サービスも標準パッケージに付帯し、一つのシステムソリューションとして提供することで、中小企業のお客さまのロボット導入を支援したいです。

――自動化の裾野が広がりますね。
 中小企業に加え、研究所(ラボ)や実験室内の作業プロセスを自動化する「ラボラトリーオートメーション(LA)」などの新規分野も標準パッケージの主要なターゲットの一つに据えています。LAを推進する際も費用対効果やエンジニア不足といった問題がついて回るため、その解決策の一つとしてコボッタプロや小型協働ロボット「COBOTTA(コボッタ)」を駆使した標準パッケージを訴求しています。手作業だと実験結果にばらつきが生じますが、ロボットを使えば安定したデータが得られるため、LAのメリットは大きいです。

実用的なソリューションを提案

前回同様、今回も40小間の規模でRTJに臨む(写真は前回展のデンソーウェーブブース、一部加工)

――RTJ2024の見どころは?
 未自動化領域にアプローチするさまざまなアプリケーションやソリューションを展示します。コボッタプロの特徴を生かした各種アプリケーションを筆頭に、AI搭載型の3Dビジョンセンサーを駆使したばら積みピッキングの標準パッケージなど、さまざまなデモシステムを用意します。この他、製造現場のカーボンニュートラル(炭素中立)の実現に貢献するため、IoT技術でエネルギー消費量を可視化するシステムなども出展します。

――RTJ2024への意気込みをお願いします。
 RTJと国際ロボット展(iREX)とで、展示内容のすみ分けを図っています。RTJではお客さまに自動化のメリットを具体的にイメージしていただけるよう、iREXで披露したコンセプトやコア技術をより実用的なソリューションに落とし込んだ形で提案したいです。また、RTJは中部地区で開催されるだけあり、自動車業界のお客さまも数多く来場すると期待しています。今回展示する多数のソリューションは、自動車業界のお客さまが抱える自動化の課題解決にも役立つ内容だと自負しています。

(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角 秀)

神谷孝二(かみや・こうじ)
1989年名古屋大学大学院工学研究科修了、日本電装(現デンソー)入社。2001年デンソーウェーブの設立と同時に出向。制御システム事業部技術企画部長などを経て、19年執行役員FAロボット事業部長。22年から現職。愛知県出身の59歳。

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