[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.9]学術と産業をつなぐ 、理事を経て学会長に【後編】/小平紀生
1年後の再登板
前編でお伝えした通り、日本ロボット学会の理事を2008年から2年間引き受けました。かなり出しゃばりましたので、任期終了時にはそれなりの充実感と、肩の荷が下りた安堵(あんど)感がありました。
ところが10年の秋口、第12代会長の内山隆さん(故人、元富士通研究所取締役)から「副会長で戻ってくる気は無いか? やり残したことたくさんあるだろう」との打診。確かに本来の役目であるロボット産業とアカデミア(学術界)の連携強化については、道半ばでした。
ここで引き受けたら、その後順当にいけば会長就任の可能性が高いことは理解していました。「えらいことになった」と思うところと「望むところだ」という気持ちは半々でしたが、結局11年からの2年間の副会長を引き受けました。
当時の第15代会長は立命館大学の川村貞夫教授、副会長は私と、東京大学の浅間一教授です。11年3月の新役員就任直後に東日本大震災が発生したため、浅間副会長がレスキュー・インフラ整備系のロボット技術の強化、私が当初の目的通り産業用ロボット技術の強化と、副会長2人の役割分担が鮮明になりました。
4年間の活動シナリオを描く
この時点から会長就任は覚悟していましたので、達成すべき目的を「学会活動の社会的価値の向上」。キーワードは「技術イノベーションと産業用ロボット」、「会員拡大と若手活力」、「組織強化とコンプライアンス」と決めて4年間の活動シナリオを描きました。
13年には覚悟にたがわず、第16代会長に就任しましたので、4年間のシナリオは継続することとなりました。結果として11年から14年までの副会長、会長就任4年間で目標達成率75%と自己採点しています。まあ、身の丈に合わせた目標設定だったということかもしれません。
印象深かった活動をいくつか紹介します。「若手活力」のキーワードでは、20~30歳代の若手会員でシャドーキャビネット(影の内閣)を構成して若手の意向を集約。
また世界各国から高校生を募集して産ロボに触れてもらうイベント「インターナショナルロボットハイスクール(IRH)」を開始するなど、主として「場の充実」を図りました。IRHは国際ロボット展の併設行事として今でも続いています。
コンプライアンスでは、あいまいなところがあった学会での著作権の取り扱いを明確化したり、倫理規定を策定したり、とかく判断に迷いそうな場面を減らす努力をしました。
弁護士との意見交換を繰り返したおかげで、特に著作権法には個人的にもかなり詳しくなりました。
産ロボの技術イノベーション
学会活動全体を通じての私の最大のミッションは、産業用ロボットの技術イノベーションを追求することでした。
1980年代には90%あった日本製産業用ロボットの世界シェアは2010年代には60%レベルまで低下しています。産業の価値が高ければ自ずと競争も厳しくなりますので、競争激化はやむを得ないとしても、産業用ロボットの技術で国際競争力を維持することは、日本の製造業の活力にも通じる課題だと思います。
学会で産学連携委員会を立ち上げ、比較的早い時期に産業用途でも物理化学に立ち戻った基礎技術力の強化がポイントであるとの知見に至っています。
2012年の北海道でのロボット学会学術講演会で、「航空機の材料革新」、「高分子樹脂材料の最新技術」、「機構部品の摩擦と摩耗」、「近距離無線のロボット活用」などをテーマにオープンフォーラムを開いたのを皮切りに、「材料・要素技術」の追求を始めました。
日本ロボット学会と日本ロボット工業会の合同で、化学メーカーとの技術情報交換会を通じた関係強化など、ともかく物理化学分野と産業用ロボット分野の距離を短縮する努力を続けました。産業用ロボットにおける「材料・要素技術」の追求は学会引退後もライフワークになっています。
技術者として人生の大半を費やした分野の学会会長への就任というのは名誉なことで、とてつもない幸運ですが、家族にとってはたいした問題ではなく、新聞雑誌に出てから「あ、本当なんだ」という程度。確かに家庭では相変わらず役に立たないオジサンのままで何も変わりませんでした。
――終わり
(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)
小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。
※本記事は設備材やFAの専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。
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