[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.4]初めての国際学会で 教示レス技術など発表【後編】/小平紀生
初めての国際学会、海外出張
ロボットに動作を覚えさせる作業を不要にする「ティーチレス化」は近年でもホットな話題ですが、完成度はともかく結構古くから、いろいろな取り組みがされています。
私の国際会議デビューは1983年、米国カリフォルニア州のパロアルト市で開かれた米国電気電子学会(IEEE)でした。パロアルトはシリコンバレーの都市で、近くにはスタンフォード大学もあります。
産業応用部門で、発表内容は「光学式溶接線検出センサを用いた溶接線自動追従による自動ティーチング」。話はもっともらしいものの、賢明なロボットエンジニアの皆さんならすぐに気付くような欠点も多く、当時は結構頑張ったつもりでしたが、まだ実用価値があるとは言えないレベルでした。ネイティブの英語を正確に把握できない語学力の問題もあり、米国人の容赦ない質疑に十分な応答をしきれずパロアルトでは沈没しました。
AIラボに行ってみよう
初めての海外出張の最終日はこの心残りの国際会議でしたが、それまでの日程はなかなか充実していました。
インディアナ州のパデュー大学で、アソシエートプロフェッサー(准教授)のロボット制御に関する講義を聴講した他、国際会議の前日にはスタンフォード大学にも訪問しています。
そもそもは当社(三菱電機)からの留学生を慰労するために立ち寄っただけでしたが、内心では当時ロボット関係の研究で著名な人工知能研究所(AIラボ)も見学できればと思っており、留学生にその話をしたら「行ってみよう」ということになりました。
AIラボで、それとなく研究室らしき部屋をのぞいたところ「誰を探しているの?」と聞かれたので、「『AL』の開発者を探している」ととっさに答えたら「ああ、それなら僕だよ」との思いがけない返事。ALとはAIラボがロボットの研究開発のために70年代から開発してきたロボット言語のことで、文献では知っていました。彼がその文献の著者の一人であるロン・ゴールドマン氏でした。
ALを使ったロボットの作業実験、3本指ハンドによるボールの操り実験など、懇切丁寧な“にわかラボツアー”にありつけ、大変刺激になる有意義な訪問になりました。
最終日はなんとも残念な終わり方でしたが、いろいろな意味で若手研究者として20歳代最後の年に多くを得た海外出張だったと思います。
言語統一などの工業会活動
当時の日本産業用ロボット工業会(現・日本ロボット工業会)と関わり始めたのも80年代前半からです。72年創立の工業会ですが80年の「ロボット普及元年」を経て、活動も活発化していました。
当時の工業会の活動では、日本工業規格(JIS)の制定に向けた取り組みなど、標準化も重要な課題でした。
この頃の工業会活動では大学の先生や公的な研究所の方がまとめ役でしたが、競合各社の実務担当者間でも結構協力しあっていたと思います。今なら色々と制約がありそうですが、当時は工業会の会合の帰りに若手メンバーで浜松町の居酒屋に立ち寄る、といった情報交換も日常的でした。
私はスタンフォード大学のロボット言語ALや米国ユニメーションのロボット「PUMA」用言語の「VAL」など、ロボット言語やプログラミングシステムに興味を持っていましたので、工業会でもロボット言語の規格化などの活動を引き受けていました。それは後に制定される、「ロボット言語とロボット言語の中間コード体系」のJIS化などにつながっていきます。
その主要メンバーの一人で当時まだ東京大学大学院博士課程の学生だった東洋大学の松元明弘教授(自動化推進協会理事長)とはその頃からの付き合いです。
当時の工業会では普及促進のためのロボットの利用技術講習会も盛んに開いていました。自動車や電機メーカーの生産技術者が対象です。ロボットメーカー側からは製品情報などを提供し、ユーザーからも実際の利用法の報告があるなど、情報交換の場でした。今ほどシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の存在はクローズアップされておらず、当時はロボットメーカーと大手ユーザーが活動の中心だったと思います。
――終わり
(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)
小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。
※本記事は設備材やFA(ファクトリーオートメーション=工場の自動化)の専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。
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