「ロボット半額」時代の到来を予測/サイベックコーポレーション
減速機市場に本格参入
減速機にコストダウンの動き
サイベックはロボットでの採用を目指して開発を続けている。
サイベックで技術開発を担うバリューテクノロジー(VT)研究所の白鳥達也主幹技師は「ロボット本体の原価で、減速機が占める割合が非常に高い。一カ所の関節で2個使うとすると、6軸なら減速機が12個必要。減速機の仕様にもよるが、仮に1つ10万円としても6軸なら120万円。小型のロボットなら本体価格は200万円から300万円ぐらい。ロボット価格の半分近くを占めるのが減速機」と解説する。実際の導入には、ロボット本体の他にハンドなどの周辺機器が必要で、そこにも相応のコストがかかる。
「だからこそ減速機はコストダウンの取り組みが進む」と田中健一主幹技師は捕捉する。
産業用ロボットの用途の中には、搬送など高い位置決め精度が求められない作業もある。また人の作業を補助するパワードスーツや各種サービスロボットなども今後ますます増えていく。
これらのロボットに使われる減速機は全て、切削加工した歯車を組み合わせたもの。高い位置決め精度が求められない製品にも、切削加工で作られた高精度だが高価な減速機が使われているのが現状だ。
現在のロボット用減速機は高精度で、歯車同士のすき間が限りなくゼロに近い。ロボットに組み込んだ時に、高い位置決め精度を実現できる。しかし、切削加工で製作する歯車は価格が高く、減速機そのものも重い。
「切削加工では、これ以上のコストダウンは無理でしょう」と白鳥主幹技師。減速機に求められる精度はそれぞれだが「高精度だが高価な物しかないので使わざるを得ないのが現状」と田中主幹技師は話す。
サイベックはここに目を付けた。得意の金型技術とプレス加工の技術で歯車を作り、組み立てて減速機を製造できないか?
独自の歯型で特許も
サイベックの減速機は、「サイクロイド歯車」と呼ばれる歯形形状の歯車を組み合わせた、サイクロイド型減速機。独自の歯形で特許も取得している。サイクロイド歯車は、通常の歯車加工機では加工しにくい形状だ。
「プレス加工による歯車の製造コストは、切削加工した歯車の10分の1。仕様にもよるが、減速機の価格は半分から3分の1になる。他の部分でもコストダウンが進めば、ロボットの本体価格を従来の半額にすることも可能。プレス加工では、熱処理した後に仕上げ加工をしない分、歯車としての精度は劣る。それでも減速機の性能への影響が小さくなるような歯形形状を研究して開発した。導入事例の多いハーモニクス型に求められる精度と同じ土俵で勝負しても仕方がない。ハーモニクス型のような高機能減速機と、汎用減速機の間の市場を狙う」と白鳥主幹技師は語る。
プレス加工したサイクロイド歯車で構成する減速機は薄く、コンパクトにできるのが特徴。高い減速比で何よりも低コストに抑えられる。
サイベックは2018年に、VT研究所内にプロジェクトを立ち上げ、自社ブランドでサイクロイド減速機の標準化を目ざして取り組む。減速機として組み上げたものを自社で評価できるよう、評価装置も導入した。
「既に個別の特注案件では試作品を作っており、昨年12月の『2019国際ロボット展(iREX2019)』にも出展して評価を得られた。今年から標準品を市場に出したい」と白鳥主幹技師は語る。
すでに産業用ロボットメーカーからも引き合いがあり、コストダウンした減速機の需要は高いと見る。
「現在主流の産業用ロボットはピラミッドの頂点だが、出荷数も限られる。頂点より少し下の、コンパクトサイズで安価なロボットや、自動搬送など簡易な用途のロボットの需要は今後ますます増える。そこを狙いたい」と白鳥主幹技師は期待を込める。
(ロボットダイジェスト編集部 長谷川 仁)